第拾参話 弐
『先程から騒がしいぞ、お前たち』
そんな声と共に、灰色の狐が木の間へと入ってきた。
ん? 灰色の狐……? それって、サギノマタしかいない。え? サギノマタが、ここに?!
「サギノマタ!? 何でここにいるの!?」
『何でとは、なんだ。居てはいけないのか?』
「そうじゃなくて。木陰様と、永世に戻ったんじゃないの?」
そう。サギノマタは、木陰様と共に、永世に帰ったはずなのに、ここにいる。
『神々の裁きを受け、永世を永久追放された。木陰様は戻ったが、神になる資格を失われた。俺のせいでな』
「それじゃあ、木陰様はどうなるの?」
『修行僧妖になられた。神格にはなれぬが、他の妖を導く妖となられたのだ』
それは良かったと、伝えて良いのか、私には分からない。サギノマタが、現世でしか生きていけない事は、複雑な心境。
「凄いね。あれ? サギノマタは妖力を失っているよね?」
『心配ない。本当の名を手にいれた。本当の名には、消えぬ妖力が宿っているからな』
「どういうこと?」
『サギノマタという名は、木陰様が付けてくださった、修行妖としての名だ。本当の名は、ヒサギという』
「綺麗な名前だね」
『それより、何を話していたのだ?』
かくかくしかじか。
話を知らないサギノマタ。じゃなくて。ヒサギに、斑牙が計画している、僚君の誕生日パーティーの事を話す。
『それで、華鈴と響希が、遊女をやるのか。なるほど』
「俺はやらないぞ」
「実は、私も……」
『そうなのか? 斑牙は花魁をやるのであろう? 高級遊女をやるのであれば、お付きの者たちの立場にいれば良いのではないか?』
「それって、つまり……?」
『斑牙は花魁をやりたいと言っていた。花魁道中ではなく、花魁を。だぞ? つまり、響希が遊女にならずとも、華鈴が遊女にならずとも、この話は解決するのではないか』
「なるほど。そう言うことか。斑牙がこの後から話を変えなければ、俺たちは自由!」
ヒサギのおかげで、ついに、この話が解決する! 良かった~。と、二人で胸を撫で下ろそうとした時。
『華鈴殿、響希殿!』
紅蓮荘の外から、斑牙の声が聞こえた。
「斑牙だ!」
「何か、言い残したことでもあるのかな?」
廊下を駆ける足音が聞こえたのは、束の間。すぐに、木の間に入ってきた斑牙は、勢いそのままに。
『花魁だけではなく、花魁道中をやりたいのですが!』
ウソでしょ……。まさか、こんな事になるなんて。時として、運命は、残酷なのだと悟った私たち。
「花魁道中やりたいの?」
『はい! 花魁だけでは、ふしだらかと思いまして。花魁道中をやりたいのです』
「歩くだけだもんね」
『花魁の歩き方を真似してしまいますと、私だけでなく、お二人にもかなりのご負担になりますので、普通に歩きます』
「二人?」
『華鈴殿と響希殿ですよ』
「俺はやらないぞ! 絶対に!」




