第拾弐話 陸
『それを知ってどうする?』
「それは……」
サギノマタの言う通り。理由を聞いて、どうしたいのだろう。
それにしても、重たい。
「サギノマタ。重いよ。降りてくれない?」
『俺が降りたら、お前は起き上がれなくなるぞ? それでも良いのか?』
「どういうこと?」
『はぁ。まったく、シキは何も言わなかったからな。教えてやる』
サギノマタは一息つくと、私に乗ったまま、話し始めた。
『いいか。お前は、現世と永世の間に居たんだ。つまり、生と死の間に居たんだぞ。お前の魂は、半分こちらに。もう半分は、あの世にあると思え。それと。俺の重さを感じているのは、お前の身体が、魂の半分だけ霊体になっているからだ』
魂が半分半分!? しかも、半分霊体!?
受け入れられないサギノマタの言葉に、私はどうしたら良いのかわからない。
「どうしたら良いの?」
『俺の力を使い、向こうにある魂をこちらへ呼んでいる。もう少し待てば、身体に力が入るだろう』
「サギノマタには、そんな力があるんだね。」
『この力なら、シキも……。いや。あいつは持っていなかったな』
なんだろう。だんだん、サギノマタの重さを感じなくなってきた。
感じなくなっているのは、魂が戻って来ている証拠なのだろうか。
「妖にも重さがあるなんて、思いもしなかった」
『妖や霊にだって、重さはある。ただ、人間が感じないだけだ』
「外で何が起きてるのか、早く行って、確かめたい」
『行って何になる? シキが行っているんだ。なんとかするだろう。それに、この妖気は、木陰様だ』
「木陰様が来たの? 全然気づかなかったよ」
シャン。シャン。シャン。
ゆっくりとした、錫杖の音。
一階の方から聞こえてくるので、錫杖の主が紅蓮荘の中に入ったのだろう。
『木陰様が、錫杖の音が、こちらに向かっている。寝たままではそろそろ魂が元に戻るぞ。起き上がれるだろう』
「ありがとう。サギノマタ」
ほとんど重さを感じなかったサギノマタが床に降りると、私は上体を起こした。
何の違和感もなく、力が入る。
『木陰様のお姿に、驚くんじゃないぞ』
「驚くような姿なの?」
『それはそれは、お美しく、神々しい。それなのに、天界の者たちは、木陰様を神格の妖にしなかった。無念でならない』
残念そうに俯くサギノマタ。
手を差しのべるべきなのだろうけれど、きっとサギノマタは、嫌がる。
私はただ、見守ることしか出来ない。
『木陰様の為だ』
「何が?」
『力を欲していたのは、木陰様の為』
「そうだったの」
その後、何も話さなくなったサギノマタを見つめていると、激しい頭痛に襲われ、私は再び、意識が遠退いてしまった。




