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紅蓮荘奇譚  作者: 天城なぎさ
第壱話 桜色の根付け
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第壱話 肆

 ここは、どこだろう。

 でも、知ってる。

 目が覚めた時、私はお茶の間の隅に立っていた。


 もしかしてここは、ゴミ屋敷と化した、大きな空き家?


「月島君? 花里君? どこにいるの?」


 二人を呼ぶけど、返事がない。

 どこにいるの?


 ギシッ。ギシギシッ。


 誰かこっちに来る。


「月島君? 花里君?」


 お茶の間を出て、左右を見てみると、隣の部屋に誰かが入っていった。

 後ろ姿しか見れなかったけど、どこかで会ったことがある気配。


 廊下に出ると、隣の部屋から声が聞こえた。


 ***


 篠霧(ささきり)、今日も来てくれたのね。


 起こしてしまったか?

 すまんな。


 いえ。

 今日も篠霧に会えると思って、起きていたの。


 そうか。

 しかし、寝てなければいけないのだろう?


 私は大丈夫よ。

 篠霧の方こそ、岡ノ原(おかのはら)の土地神さんが、ここに来て大丈夫?


 土地神は名ばかりで、毎日なにもすることがない。


 あら。

 神様はお暇なのね。


 暇なんてもんじゃない。

 毎日何をして過ごせばいいんだか。


 私に会いに来てくれるじゃない。

 私は嬉しいわ。


 そうだ。来る途中で見つけた。

 よかったら君に。


 ありがとう。

 綺麗なお花ね。スミレかしら?


 花の名はよくわからん。


 ウフフ。

 篠霧らしいわね。

 なんだか、岡ノ原が懐かしく思えるわ。

 岡ノ原に帰れたらいいのに。


 もう少し良くなったら、岡ノ原に帰って来るといい。

 そんなに変わってはいないからな。


 私、あまり長くはないんですって。

 ただの風邪だったら良かったのに、結核なんですもの。

 父も母も泣いてたわ。


 結核……。

 如何様な病なのかわからぬが、人間は、厄介な病にかかるのだな。


 ねぇ、篠霧。

 お願いがあるの。聞いてくださる?


 何なりと申せ。


 私が、幼き頃に使っていた根付けがあるの。

 どこかに落としてしまったのか、なくしてしまったのかわからないのだけれど、大切な物でね。

 私の代わりに探して頂けないかしら。『桜色の兎の根付け』を。


 大切な物なのだな。

 しかと承った。

 必ず見つけ、持ってこよう。


 お願いしますね、篠霧。




 私の視界が真っ暗になったのは、束の間。

 場面が切り替わった。

 鮮やかな色の着物を着た少女が、母親らしき人と話している。



 母様(かあさま)、この根付けは、とても可愛らしいです。

 私の着物に合いますわ。


 それは良かった。

 あなたに似合うと思って、買って良かったわ。


 ゴホゴホ。ゴホゴホ。

 すみません、少し休みますね。




 少女についていくと、お茶の間から離れた小さな部屋に入っていった。

 そこが、少女の部屋なのだろう。

 寝巻き姿に変わっており、手には、根付けらしき物が握られている。

 桐だんすの一番下の段を開け、そこにしまったように見えた。


 そしてまた、視界が真っ暗に。



 ゆ……さん。

 ゆき……。

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