第拾話 漆
『着きました。ここです』
女の子妖が立ち止まった場所は、小さな祠がある、遊歩道。
「この祠が、きみの家?」
『そうです。この祠が、私の家です』
「神様なの?」
「もしかして、山神か」
『はい。私は、片浜の地の、山神です』
女の子妖の正体は、山の神様、山神。神様にしては、若くて、孤独な神様。
『以前は、人間がたくさんいました。だけど最近、皆いなくなってしまって。この地一帯は、妖がいません。私をその目で見る者は、誰一人として、いませんでした』
「力は、残っているみたいだな。崇拝者がいなければ、祠に住む神の力は衰えるのに」
『ご心配なく。秋までは、山登りの人間が、多くやって来ますから』
「そうか。だから妖力があるのか」
この一瞬、頭を殴られたような痛みが襲った。
***
ねぇ、お兄ちゃん。今日は何のお祭りなの?
ミサカ様のお祭りさ。この山と森を護る神様がいてね。子どもの姿をした神様なんだよ。
年の離れた兄妹が、火が灯された提灯を持って、森の中を歩いている。
この地に住んでいた人たちだろう。提灯の灯りが集まる場所へ、その兄妹は向かっていた。
ミサカ様はね。お祭りの日になると、姿を現すんだよ。
会えるの!? 神様に会えるの!?
信じていればね。僕だって見たことがないんだ。まだ、一度も。
それなら、私たちの方から会いに行こうよ! ミサカ様もお祭りに行きたいだろうし!
それじゃあ、祠に寄ってから、神楽舞台に行こうか。
うん! あ、あそこに、誰かいるよ。行ってみよう。お兄ちゃん。
駆け出す妹を、兄は追う。
ここで、見えていた景色が消えてしまった。
***
『華鈴様、華鈴様!』
「大丈夫だよ。りんちゃんは、きみの思い出を見ているんだ」
『しかし!』
女の子妖から念が送られてきたのは、ほんのワンシーン。
倒れたらしい私は起き上がり、服に付いた木の葉や枝を払って、女の子妖に話す。
「心配しないで。私は大丈夫だから」
『華鈴様! よかった。ご無事ですか?』
「うん。心配してくれたんだね。ありがとう」
私に抱きついてきた女の子妖は、パァっと笑顔になり、とても可愛らしい。
本当に神様なのかと、不思議に思ってしまう。
「それで、どうだった? 何かわかったのか?」
起き上がると、響希君が聞いてきた。
「名前、わかったよ。名前が消えた理由は、わからないけれど」
『本当ですか、華鈴様!』
「本当だよ」




