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紅蓮荘奇譚  作者: 天城なぎさ
第拾話 妖の名
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第拾話 陸

 乗り換えはあっという間で、三駅先の片浜(かたはま)駅にはすぐに着いた。


「ここが片浜か。秘境だな」

「きみは、この地で暮らしていたんだね」

「海風が気持ちいい!」


 海を臨む片浜は、電車を降りるとすぐにわかるほど、海風の潮の香りが広がる、家々が少ない秘境。


「きみの名前、見つかるといいね」

『はい! お願いします、(つかさ)様!』


 女の子妖の頬が、少し赤らんでいるように見える。

 もしかしたら、女の子妖は、(つかさ)君のことを……。


「まずは、駅を出ようよ。ここで話していても、何も見つからないよ」

「そうだね。行こ、響希」


 返事がない。

 どうしたんだろう。考え事かな?


「響希君? どうしたの? 行こう」

「あ、あぁ」

「考え事?」

「ちょっと、な」


 今、響希君は女の子妖を見て、考え事をしていた。

 それまでは、なんともなかったはずなのに、ここに来て、何かあったのだろうか。


「この辺りに、家々はないの?」

『ありませんよ。つい最近まではありましたけれど』

「最近までなの? それにしては、自然が豊かすぎる」

『妖と人間の時間は、違うモノですよ。華鈴様』


 そうだった。

 妖と人間が生きる時間は違う。


「あのさ、聞いてもいいか」

『なんでしょうか。響希様』

「この一帯は、森と海だけなのか?」

『そうですよ』

「妖は、他にもいるのか?」


 その一言に、女の子妖からの返事は、すぐにはなかった。

 女の子妖が口を開いたとき、その声が、震えて聞こえたのは、私だけじゃないはず。


『いません。ずっとずっと、一人です』


 ***


『私の家へご案内します。森の中にありますので、そちらで話しましょう』


 駅を出て、女の子妖について森へと向かう。

 その間、女の子妖は無言で(つかさ)君の手を握っていた。


「華鈴、どう思う?」

「何を?」


 前を行く(つかさ)君と女の子妖。その後ろを、私と響希君が歩いている。

 私にだけ聞こえるように、響希君は耳打ちをして聞いてきた。

 私も思わず小声で返す。


「あの妖、この地に一人で暮らしていた。だから、名前を呼んでくれる奴は、この地にはいない」

「つまり、何?」

「あの妖には、最初から名前がないんじゃないか?」

「まさか、そんなことある? 妖にだって、生まれたときから名前くらいあるでしょ」


 妖と人間が違うことは明らかで、共通点があるとしたら、『名前』があることくらいだと思う。

『名前』がない妖ならば、生まれることなく、消滅することなく、妖として現世(うつしよ)にいないはず。


「どうかしたの? 二人とも」


 前を歩く(つかさ)君が、振り返り、私たちを不思議そうに見ている。


「なんでもない。気にするな」

「本当に? ある程度の内容が、聞こえてたよ?」

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