第拾話 弐
「この羊羮、お茶に合うといいね」
『そうですね。美味しいお茶に、美味しいお菓子。最高の組み合わせです』
そんなことを話ながら、霞ヶ森の奥へと入っていく。
『おや?』
「依頼かな? それとも迷子?」
紅蓮荘のある最深部に着くと、朧池の畔に、黄色い長い髪で、オレンジ色の着物を着た小学生くらいの女の子が、しゃがんで池を見ていた。
『妖ですね。声をかけましょう』
「そうだね」
森を抜け、女の子の妖に近づき、声をかける。
「こんにちは。こんな所で、どうしたの?」
『わぁあっ!!』
池を見ることに夢中になっていたらしく、私たちが近づいていたことに気づかなかった様子。
声をかけると、驚きの表情で、私たちを見据えた。
『あ、あの。ここは、紅蓮荘ですか?』
『そうです。紅蓮荘に、何か用ですか?』
シキが訊ねると、女の子妖は立ち上がり、私たちに言う。
『探して欲しいのです!!』
***
紅蓮荘の中に入り、いつもの木の間に向かった。
『もう一度お聞きしますが、探して欲しいモノは、一体なんでしょうか』
私が一階にある小さな台所でお茶を淹れている間、シキが依頼を聞いてくれている。
三人分のお茶と切った羊羮をお盆に乗せ、木の間のドアを開けた。
「どうぞ。人間の食べ物と、飲み物だけど」
『ありがとうございます』
女の子妖の前にお茶と羊羮を置き、シキの方にも同様に置く。
いつの間にかシキが人間の姿になっていたけれど、そこは、触れないでおこう。
『ありがとう。華鈴。きみも、座ってください』
シキの言葉に頷いて、私の分もテーブルに置き、シキの隣に座る。
『私の名前を、探して欲しいのです。シキ様より伺いました。貴女が、私の依頼を受けてくださると』
助けを求めるように、テーブルに身を乗り出した女の子妖。
自分の名前を探しているようだけれど、どういうことなのだろう。
『貴女の名は、奪われたわけでは、ないのでしょう?』
シキは更に聞く。
『奪われてはいません。いつの間にか、消えていました』
疑問は増えるばかり。
私だけでは、手に負えなくなってくる。
「その依頼は、お受け致します。明日、もう少しだけ、詳しくお聞きしてもいいですか?」
『ありがとうございます。よろしくお願いいたします』
引き受けることにした、久しぶりの依頼。
片浜の地に住んでいるという女の子妖は、今晩、紅蓮荘に泊まるようで、シキと話している。
今までより、きっと難しいだろうけれど、響希君と僚君もいてくれる。
とりあえず明日、響希君と僚君にも相談しよう。




