第玖話 漆
「そんなことより、今、何時?」
桃麻が唐突に聞いてきた。
「今は……。あれ? 何時?」
「スマホがあるだろ、それを見れば……。ん?」
私が響希君に聞き、ポケットからスマホを出してくれた。
だけど、反応がおかしい。
「充電したはずなんだけどな。僚、お前のスマホで確認してくれ」
「え、僕のスマホも電源が入らない」
「ちょっと待って。それなら、私と桃麻のも?」
「嘘だろ? 同じタイミングで壊れるわけ……」
鞄からスマホを取り出して確認。
桃麻もポケットから取り出す。
「うそ。なんで?」
「買ったばかりなんだぞ~!!」
『妖気で電波が歪んだんですね。大丈夫ですよ。神守祭が終われば、元に戻りますから』
「それだと、時間がわからないじゃないですか」
桃麻の言う通り。
『ここは今、普通の人間には見えない結界が張られていて、結界の外の時間は、止まっています。心配しなくとも、今の時間は神守祭が始まる頃と同じ、七時半ですよ』
「妖怪って凄いんですね!」
『フフフ。中々、面白い方だ』
そんな話をしている間に、鈴の音が聞こえ、汐雨神社の姫神、汐凪姫が、天空から姿を現した。
荘厳な空気。
妖は皆、ひれ伏している。
『我々も、頭を下げましょう』
シキに促され、ひれ伏す。
『皆、よくぞ参った。東西南北全ての方角を護る者たちを、今宵、決める』
なんとも言えない優しくもあり、厳しくもある声。
今話しているのが姫神様なのだと、声だけでわかる。
名乗り出た妖たちは横一列に並んでおり、五体全ての前に立つ姫神様。
掌をそれぞれの頭の上にかざすと、閃光が光る。
「あれは、何をしているの?」
私は小声で、シキに聞く。
『あれこそが、選考なんですよ。閃光の色によって、合格、不合格が判ります』
シキも小声で答えてくれた。
「色?」
『白い閃光なら合格。黒い閃光なら不合格です』
「へぇ。それで、結果は?」
『見たところ、犬の妖殿は選ばれなかったようですね。その他の方々が、十年間のお務めをなさいます』
それにしても、審判の汰矢は、何もしていないような……?
「シキ。僕気になったんだけど、汰矢は審判なんだよね? 何もしてないよ?」
僚君が聞いてくれた。
『汰矢殿は、このあとの引き継ぎの儀式で、祝詞を捧げ、新任の方々に忠誠を誓わせるのです。汰矢殿のお役目はこれからですよ』
「見てみたいものだな」
「響希君の言う通り、私も見てみたい!」
『あまり面白味はありませんよ?』
「僕は最後まで見たいところだけどね」
「俺もです。シキさん」
『ボクは帰りたかったのですが、汰矢殿が審判ですし、お役目を見届けましょうか』
シキは帰ろうと踵を返したが、私たちの言葉で、汰矢のお役目を最後まで見届けることにしたようだ。




