第玖話 陸
『これより、神守祭を開始する。名乗り出る者は、居るか?』
巾王神社に住む、汰矢の開始宣言。
多くの妖たちがどこからか姿を現し、私たちの周りを埋め尽くすと、汐雨神社の神様をお守りする妖を決める、神守祭が幕を開けた。
「うっわ~! これが妖怪かぁ」
シキから妖を見れるようにしてもらった桃麻は、なんだか興奮気味。
「静かにしてなよ、桃麻。妖たちは本気なんだから」
「だけどさ、妖怪がすぐ側にいるんだぞ? 興奮するだろ!」
「しないよ!? 妖なんて日常茶飯事なんだからね」
「華鈴はそうかもしれないけれど、俺には新鮮なんだよ!」
まったく。
妖なんて、そこら中にたくさんいるし、今さら興奮も何もないんだから。
『華鈴の恋人君は、妖を見たかったのですか?』
「もちろんです! アニメでしか見たことがないので、それが現実だと、楽しそうだなって」
『どうですか? 間近で見る妖は』
「迫力がありますね」
そんな会話をしているうちに、名乗り出た妖が、汰矢の元に集まっていた。
『この多さで名乗り出た者は、あれだけですか』
汰矢の元に集まった妖は五体。
見たところ、黒い犬の妖、人型の一つ目妖、雄牛のような顔で首から下が人型の妖、薄紅色の着物を着た女妖、身体中傷だらけの筋骨隆々な妖が名乗り出た様子。
『名乗り出る者は以上か?』
汰矢はもう一度声をかけるが、あの五体だけのよう。
『近年稀に見る、少なさですね』
「前は多かったの?」
シキに聞いてみる。
『十体を超えていた年もありました。一度神守になってしまうと、|二度と神守になれません。もしかしたら、ここに集まった妖は、過去の神守でしょう』
「神守は、何体まで選ばれるんだ?」
響希君も聞く。
『多くて四体。神守は争って決めるのではなく、汐雨神社の姫神によって選ばれます』
「じゃあ、名乗り出た五体のうち一体が落選……」
「あれ? でも、汐雨神社に祀られている神様って、姫神だっけ?」
僚君も加わる。
「汐凪姫だったと思いますよ」
桃麻までも。
『ご存知でしたか』
「はい。大昔、この地で大干ばつが起きた頃、偶然通りかかった汐凪姫が、困った人々を助けるために、雨を降らせたとか」
『その通りです。詳しいですね』
「それ以来、人々は汐凪姫を祀った神社を建てたんですよね」
『そんな事まで知っているとは。御見逸れしました』
「いえいえ、そんな」
シキと会話をする桃麻は楽しそう。
妖と話せることはないだろうから、良い経験になったかな。
「りんちゃんの彼氏さん、詳しい人だね」
「妖眼を持つ俺たちでも知らなかったぞ」
響希君と僚君に言われたけれど、私だって二人と同じ。
「私も、桃麻が汐雨神社に詳しいとは思わなかったよ」




