第玖話 壱
もうすぐ夏休みが終わってしまう。
お盆の中日に、白牙の生まれ故郷である樽沼に行ってきた。
田畑が広がる、小さな田舎町。
最寄り駅から電車で三駅。
シキから聞いた、白牙のご両親が眠っている場所に向かい、白牙と一緒に少しばかりのお墓参りも済ませた。
お盆が明けて三日。
今夜は市内で一番大きい神社、『汐雨神社』の夏祭り。
浴衣を持っていないから、ノースリーブのワンピースを着て行くことにした。
「華鈴ー! 桃麻君が、迎えに来たわよー!」
「はーい」
階下からお母さんが呼ぶ声が聞こえる。
桃麻と一緒にお祭りに行くのは、いつぶりだろう。
階段を降りて玄関に向かうと、紺色の甚平を着た桃麻が立っていた。
「お待たせ。行こっか」
「華鈴のワンピース姿、可愛いな」
「そうかな? ありがと。桃麻の甚平姿、カッコいい」
「サンキュ」
汐雨神社までは、歩いて二十分。
その間、視界に入る妖が多いのなんの。
「今日は、やけに妖が多いなぁ……」
桃麻に聞こえるか聞こえないかの声で、ひとり呟く。
「すれ違ったりしてる?」
すぐ隣を歩いているからなのか、聞こえていたみたい。
「うん。えっとね、橋の欄干を歩いてる小さな妖と、私たちの前を歩いている烏天狗……。あれ?」
私たちの前を、知っている気配をまとった烏天狗が歩いている。
「もしかして、汰矢?」
「ん? 知り合い?」
桃麻は、どうした?というような顔を向けてきた。
「妖の知り合い。巾王神社に住んでいるの」
「華鈴にしか見えないのか……。羨ましいぜぇ!」
「こらこら。汰矢に聞こえちゃうよ?」
すると、前を歩く汰矢が振り向いて、驚きの表情。
『華鈴殿!?』
あーあ。
見つかってしまった……。
「やぁ、汰矢。久しぶりだね」
『久しぶりですな』
足を止め、汰矢と話す。
「いるのか? ここに、いるのか?」
隣にいる桃麻は、私と私の視線の先を、交互に見ている。
なにやら呟いているけれど、気にしない。
『しかし、そちらの人間は? 響希殿でも僚殿でもない様子』
汰矢は、私の隣にいる桃麻が気になるようで、チラチラと桃麻を見ている。
「えっとね、どう伝えたらいいのかな。私の、恋人」
最後の方はかなり小声だったけれど、汰矢に伝わったかな。
『恋人!? そうであったか。邪魔をして、すまぬ』
では。と言い残すと、羽を広げて飛んでいってしまった。
「あー。行っちゃった……」
「えっ!? いなくなったのか!?」
桃麻は残念そう。
「俺も見たかったぁ~。烏天狗とか幻想の話だからさ」
「巾王神社に行けば会えると思うけど、桃麻には見えないからね」
「俺にも、妖怪が見えたらな~」




