第捌話 陸
「孵化、した?」
家に急いで戻り、宿題を持って急いで紅蓮荘へ。
『まだだ。まぁ、座れ。人間は暑さにヤられやすいだろ』
「ありがとう。キノカサ」
キノカサが出してくれた椅子に腰掛け、卵を観察。
『それにしても。白牙が、カヌに興味を示すとは……』
『ひどいな~。シキ、ボクだって妖に興味を示すことくらい、あるよ?』
『出会ったばかりの頃は、何者にも無関心でしたのに』
その時、花瓶に飾られている紫色の花から一枚、花びらが卵の上に落ちた。
ピキッ。ピキキ。
卵にヒビが入り、欠片が巣の中に落ちていく。
皆、卵に夢中で、言葉を発しない。
『散歩は、いつもいいものですな。ん? 皆、どうした?』
この声は妙月様だ。
「妙月様、静かにしててください。孵化しそうなんです」
小声で妙月様に伝える。
『ほぅ。いよいよか』
小声で私たちに近づいてくる妙月様。
それからおよそ二分後、その時は来た。
『ピギャア!』
殻が落ち、黒くて小さなカヌの雛が姿を姿を現す。
小さなカラスとでも言おう。
とても可愛らしい、愛らしい姿。
皆、カヌの雛は初めてで、視いっている。
「あ、産湯!」
『タオルも必要ですね!』
一斉に水の間から出て、タオルやら産湯を沸かしたり。皆、てんやわんやで、大慌て。
『いやいや。皆、落ち着きなよ』
白牙だけは、カヌの雛の元に残った。
***
『こっちだよ~。ピーちゃん』
白牙が歩く後ろを、カヌの雛は追うように羽をパタパタさせて歩いている。
「ピーちゃんって、名前つけたの?」
一段落ついたら、皆、水の間でお茶。
カヌの雛を気に入ってしまった白牙が、カヌの雛のお世話。
『ピギャア! って、鳴いたでしょ? だから、ピーちゃん!』
ピーちゃん、ピーちゃん。
書物にあったけれどカヌの雛は、生後間もなく巣立つ。
とても短い時間が、カヌの雛と過ごせる時間。
ピーちゃんが羽ばたくと、徐々に浮かんでいく。
『巣立ちでしょう。カヌの雛は、生後間もなく巣立ちますからね』
『えっ、もう!?』
「書物にもあったでしょ?」
『でもさ、でもさ!』
開けていた窓に、カヌの雛が近づく。
白牙は窓辺に行き、カヌの雛を行かせまいと、窓の前に立ち塞がる。
『嫌だよ! 行かないでよ! ピーちゃん!』
「やめなよ、白牙!」
『白牙、カヌは幻の妖。還るべき場所があるのです』
『諦めて、おとなしくしていろ。白牙』
私、シキ、キノカサに止められた白牙は、もっと酷い、だだっ子状態。
「どうして、そんなにピーちゃんを行かせたくないの?」
理由が知りたい私は、白牙に聞いてみた。




