第漆話 陸
『キョウカ様!』
『あなたは、残ってくれたのね』
『申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!』
キョウカ様の姿に気づいた小さな妖は、キョウカ様の足元に行くと、何度も土下座。
「それで、消えたわけじゃないって、どういうことなの?」
理由がわからない私は、響希君に聞く。
「『あの木』が、原因なんだ」
そう言って、響希君はお庭の片隅を指差した。
私もキョウカ様も、小さな妖もその方向を見る。
『カエデの木ですか?』
「そう。気づいてないようなら、近づいてみるといい」
『見てみましょう。お嬢さん』
「はい」
キョウカ様と共に、カエデの木に近づこうとした時。
「お待たせ。連れてきたよ」
僚君が、小さな妖を抱えて連れてきた。
『キョウカ様!』
『ご無事でなによりです!』
僚君の腕の中で、思い思いに話す妖。
『何があったのです? カエデの木に、何か?』
キョウカ様はわからない様子。
私もわからないのに、二人は何かに気づいたんだ。
『カエデの木に、何やら良からぬモノが憑いているのです。我々はそれに気づき、追い払おうと……』
いつの間にか私の肩に登っていた小さな妖も、僚君の腕の中の妖も、涙ぐんでいる。
『この木は、キョウカ様と祥一郎の思い出が、詰まっていらっしゃる。今日は、祥一郎の命日。それまでに、なんとかしたかったのです』
『ありがとう。皆、わたくしの為に……』
つられてなのか、キョウカ様の目にも涙が。
「あの木にいつから憑いているんだ?」
唐突に、響希君が口を挟む。
『一ヶ月前だ。突然現れ、あの木に憑いた』
「そうか。今の今まで、追い払えなかったのか?」
『我々の妖力では、限界だ。それとも、お前は祓えるのか?』
「出来ないこともない」
小さな妖は目を見開き、響希君の足元に飛び降りた。
そして、すがるような目。
『お願いだ! キョウカ様の為に、やってもらえないだろうか!』
僅かな沈黙の後、響希君は口を開く。
「わかった。その代わり、お前のように小さく、妖力の少ない者は皆、家の中に入れ。祓いの光に飛ばされるぞ」
『わかった。頼むぞ、人の子よ』
「中に入ったら、ゆっくり休め。今まで追い払おうと、妖力を使っていたんだろ。主人の命日を、くたくたの状態で迎えるな」




