第伍話 結
『華鈴殿、起きていらっしゃいますか?』
ドアの向こうから聞こえる、斑牙の声。
あの後、紅蓮荘には、ひとりで戻った。
ベッドに仰向けで寝そべり、天井をぼんやりと見つめる。
今は、誰とも話したくない。誰の顔も見たくないのに。
「ごめん、斑牙。今は、何も話したくない」
ドアの向こうまで聞こえているか否かの声量で、答える。
『そうですか。シキから言伝てを頼まれていたので、それだけお伝えしますね』
聞こえたんだ。耳が良いんだね。
『殺鬼の脅威がなくなったことで、汰矢殿は巾王神社に帰られました。僚殿も響希殿も、ご自宅へ帰られるようなんです。華鈴殿は、どうなさいますか?』
そっか。二人は帰るんだ。なら、私も帰る。
「私も帰る。荷物、まとめるね」
『わかりました。私の方から伝えておきますね』
静かになった。
斑牙、部屋の前からいなくなったのかな。
それにしても、何もする気が起きない。このまま、寝そべっていたいな。
***
コンコンと、誰がドアをノックする音。
誰とも話したくないって、斑牙に言ったはずなのに、誰なの。
荷物をまとめる手を止め、ドアを開けるけれど、誰もいない。
ただ床に、一枚の四つ折りにされた白い紙が、置いてある。
何なの。もう、ほっといてよ。
今は誰とも、話したくないないんだから。
『明日、話せなくても良いから、学校で会おう』
『俺たちを、無視してくれてかまわない。だけど、学校には来い』
響希君と僚君からだ。
学校には行くけど、二人とはしばらくの間、距離を置きたい。
いつものように、昼休みに視聴覚室に集まって、話すことはなくなるだろう。
しばらくは、紅蓮荘にも足を運びたくない。
帰ろ。
誰にも見つからずに、こっそりと。
部屋に戻り、持ってきたリュックサックを背負って、出た。
緊張する。
二階の廊下には誰もいない。階段にも、一階にも。
玄関を出てからも、緊張感は続く。
霞ヶ森に暮らす妖たちがいるから。
いかにして、見つからないように出るか。
ガサッ。
森に入ると、足音が聞こえた。
私の足音じゃないよね? 周りを見渡すけれど、誰もいないみたい。
身を低くして、低木に隠れるように歩き、家路に着く。
「ただいま~」
家に着くと出掛けてるのか、誰もいない。
玄関のドアには、鍵が掛かっている。
持っていた鍵で開けて、靴を脱いで、そのまま自室に直行。
とりあえずは、朝までずっと部屋にいたい。
「華鈴、帰ってきてたの?」
階下から聞こえるお母さんの声に反応せず、ベッドにダイブ。
こうしてると、なんだか落ち着く。
「はぁ……」
緊張の糸が切れたせいかな。
一気に、疲労感が押し寄せてきた。
まぶたが重たいし、このまま、夕食まで寝てたい。




