第伍話 陸
あっという間に、殺鬼の脅威は消え去った。
――キノカサ。紙人形はあるか?――
――あるが、何をするつもりだ?――
――まぁ、見ておれ――
キノカサから、紙人形を受け取った妙月様。
そして、私に話しかけてきた。
――娘よ。この身体を、そなたに返す。戻って参れ――
――キノカサは妙月様と、もう会えないのですね。もう少し、お話しされてはいかがですか?――
――その必要はない――
――そうなんですか?――
――とにかく、元に戻られよ。さもないと、一生このままだぞ――
それは、嫌だ!!
妙月様が呪文を唱え始めると、妙月様の魂が、私の身体から抜け出ていく感覚に襲われた。
そのまま、私の魂が引っ張られ、戻っていく感覚。
***
視界が真っ暗。
立っている感覚があるけれど、目を開けているのか、いないのか。
『娘、目を開けてみよ』
妙月様の声が聞こえる。
私、目を瞑っていたんだ。
目を開けて、視界の先に広がる景色を見渡す。
「あれ? 妙月様?」
『そうだ』
妙月様がなんで、ここにいるんだろう。
「どうして、妙月様がここに? 霊体ではないですよね」
『紙人形を、キノカサから受け取っただろう。その紙人形に魂を移しただけだ』
あ、紙人形でしたか。
封魔師は何でもできるんですね。
『華鈴。身体、どこか痛いところはないか?』
「大丈夫。ないよ」
キノカサの声をまともに聞いたのは、久しぶりな気がする。
『それと、騙して悪かった』
何のことだろ?
キノカサに騙されていたことは、何もないはずなんだけど……。
『華鈴。お前は、妙月の生まれ変わりではないんだ』
唐突に言われた真実。
私が、妙月様の生まれ変わりではない。
それならなんで、シキもキノカサも騙してたの?
私じゃなくても、よかったわけだよね。
「どういう事なの?」
『妖念感の能力を持つ妙月を呼び出すには、同じ妖念感を持つ華鈴が必要だった』
キノカサの説明は、すぐに終わってしまった。
『理由はもう一つ。華鈴の体質が関係しています』
シキだ。
キノカサに代わって、シキが説明してくれた。
『妖念感は本来、倒れてしまうほど強い念は、感じることができません。ただし、華鈴の場合は、強い念を感じてしまうんです。妙月殿は千年も前の人物。華鈴の体質が必要でした』
「それなら、最初から、そう言ってくれたら良かったのに!! なんで……」
憤りしか感じない。涙が込み上げてくる。
「ごめんね、りんちゃん。シキとキノカサと皆で、りんちゃんのことは、話し合って知ってた。この危機的状況を少しでも軽くしたかったんだ。りんちゃんを犠牲に、不安を増やしてしまったから、謝っても許してもらえないことはわかってる」
僚君の言葉。響希君が、続けて言う。
「俺も僚も、華鈴を見捨てた。そう思ってくれていい。俺らは、ただ妖が見えるだけで、何もできない。華鈴の力に頼ってばかり。騙さずに、正直に伝えていれば、華鈴にもわかってもらえたと、今、思ってる。無理強いさせて、本当に、悪かった」
今の私は、響希君の言葉も僚君の言葉も、信じられない。
ここからすぐに、立ち去りたかった。




