第肆話 陸
現在とは違う、家々。果てしなく広がる田畑。そして、逃げ惑う人々。
今、私は高台で、視界に広がる景色を見ている。
ここは、どこなの?
――ここにいては、喰われてしまう。そなたは、逃げないのか?――
聞き間違いじゃない。キノカサの声だ。
声の方に向かって歩いていくと、すぐに姿を確認した。
やっぱり、キノカサがいる。
それと、もう一人。人間みたいだけど……。
――殺鬼が彷徨いているのだな――
誰だろう。
男の人とも男の子とも言えない、現代で言うと、中学生みたいな、変声期を終えたばかりのような声。
――そうなのだ。それにしても、ここらでは見ない顔だが、そなた、何者だ?――
キノカサが誰かに聞く。
――我が名は、朱音寺妙月。封魔師だ――
この人が!
この人が、汰矢やキノカサ、式神たちの言う、妙月様なんだ!
同い年に見えるから、封魔師になったばかりなのだろう。
――ほぉう、封魔師か。ならば、この殺鬼らを封じられるか?――
妙月様は少し考え、返す。
――やってみよう。その代わり、少し力を貸してもらえないか?――
――生身の人間には、殺鬼の邪気が毒になるからな。俺でもキツいが、良いだろう――
――感謝する。そなたの名は?――
――キノカサだ。この地で生まれた、旅人。とでも言おう――
――旅人か。なかなか面白いな――
そんな会話の中、二体の殺鬼が、こちらに気づいたらしく、向かって来た。
――酷い邪気だ。妙月、そなたに力を貸そう――
――すぐにでも封じよう。これ以上、人々を喰わせるわけにはいかない――
妙月様は足元に落ちていた木の枝を拾うと、地面に陣を描いた。
――キノカサ。そなたの羽を二枚くれまいか――
――羽二枚で、いいのか?――
――そなた自身を、使うわけにはいかないからな――
妙月様は、陣の中央に紙人形を置くと、キノカサに言う。
――我はもう一つ、封印の陣を描く。中央の紙人形の上に置いてくれ。そうしたら、こちら側へ――
少し離れた場所に、先程とは違う陣を描いた妙月様。
キノカサは、自らの羽を二枚取ると、二つの封印の陣の中央に置いた。
殺鬼はスピードを上げ、こちらに一目散。
――来るぞ!!――
――来る!!――
二人の声は同時。
キノカサが自分の側に来たことを確認した妙月様は、身代わり用の陣に向かって、呪文を唱える。
だけど、なんて言ってるのかわからない……。
殺鬼は更にスピードを上げている。
大丈夫なのかな?
そうこうしているうちに、二体の殺鬼は、高台へとやって来た。
高台は木々が無いため、開けている。
殺鬼が気づかないわけがない。
――陽光、邪の鬼を封ずる鎖とならん――
二体の殺鬼がそれぞれの陣に入った瞬間、妙月様は呪文を唱えた。
陣から眩い光が出現。
殺鬼は瞬く間に、紙人形に吸い込まれていく。
眩しさに目を瞑っていると、いつの間にか、殺鬼はいなくなっていた。
――妙月。そなた、ただ者ではないな――
――キノカサ。その言葉、そのまま返そう。この妖力、どこで培ったのだ?――
――長く旅をしているからな。自然と身に付いたんだろう――




