第肆話 肆
「烏天狗なら、妖たちが看てくれている。華鈴が心配しなくていい」
響希君も言う。
『シキー! 来てくれ!』
一階から、妖のシキを呼ぶ声。
急いで一階に向かうと、何人かの妖たちが、『風の間』の外にいるのがわかる。
『どうしたのです?』
シキが、ひとりの妖に尋ねた。
『烏天狗が目を覚ました。あとを頼む』
『わかりました』
シキとともに『風の間』に入ると、中には、烏天狗だけ。
上体を起こし、窓の外を見ている。
『お気分はいかがですか。烏天狗殿』
シキが声をかけると、こちらを見て、少し驚いていた。
『狐殿。お助け頂き、礼を申す』
短く頭を下げ、顔を上げた。
『シキと申します。今は、ゆっくり休まれて下さい』
『我は、下宮の地に住む、汰矢だ』
「えっ、下宮!?」
聞き間違いじゃないよね?
「華鈴?」
「どうしたの? りんちゃん」
下宮。そこは……。
「下宮って、私が住んでる所だよ」
『そなたは、下宮に住む人間なのか』
「うん」
『ならば、巾王神社を知っているか?』
「知ってる。家が、神社の近くなの」
汰矢は先程よりも驚いて。
『なんと! 我は、その神社に住んでおる。最近、殺鬼が現れているようなのでな。見回っておる』
『汰矢殿。話を聞かせていただけませんか?』
巾王神社には、下級や中級の妖が、頻繁に訪れるのだそう。
そんなある日の昼下がり。
中級妖が何者かに殺され、その仲間が汰矢に助けを求めた。
汰矢は、中級妖の外傷を見て確信する。
『これは、殺鬼の仕業』だと。
しかし殺鬼は、陰陽師によって、全て封じられている。
数千年の時を経て、封印が解かれたのではないか。
はたまた。
全てが、封じられたわけではないのか。
汰矢は考え、自らの目で確認しようとした。
下宮から霞ヶ森に向かって飛んでいると、背後から、強い悪念と呪詛を感じる。
しかし、感じたときには、時すでに遅し。
霞ヶ森の上空から、真っ逆さま。
悪念と呪詛により、深手を負ってしまった。
『目を覚まされたか。烏天狗殿』
キノカサの声が聞こえる。
振り向くと、見回りから帰ってきたキノカサが、部屋に来た。
「おかえり、キノカサ」
『今帰った。殺鬼の気配が多い。外は危険だ』
『キノカサ殿……?』
汰矢がキノカサを見て、不思議そうな顔をする。
『そうだが?』
キノカサも、不思議そう。
『妙月様をご存知か?』
汰矢の言葉に、驚きを隠せないキノカサ。
『我が主の名だ』
やはり。
一言前置きをし、汰矢は続ける。
『キノカサ殿、我が願いを聞いて頂きたい』
『殺鬼を封じて欲しい。とでも、言いたいのか?』
『その通り』
『俺は、妙月様のように、高度な魔封術は使えない。殺鬼封じは、鬼封じと違い、複雑だぞ』
キノカサと汰矢が話している間、部屋の片隅で、私は響希君と僚君と話す。
少し小声で。
「響希、キノカサの過去を聞いたことある?」
「あるわけないだろ。旅ばかりしているんだから、会うことが少ない」
「りんちゃんは? キノカサと仲良いよね?」
「私もない」
「とりあえず、キノカサと汰矢が言ってる、妙月様が誰なのか、調べてみよう」
「ここにいても、殺鬼から、身を隠しているだけだもんね。暇潰しになりそう」
「二階に書庫がある。そこに何かしらの書物があるだろうな」
僚君の提案で、妙月様が何者なのか、調べることにした。




