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紅蓮荘奇譚  作者: 天城なぎさ
第肆話 傷だらけの烏天狗
30/130

第肆話 参

「突然なんだけど、友達の家でお泊まり会することになったから、行ってもいい?」

「突然過ぎるでしょ!? お家の方は何て?」

「いいよって」


 一度家に帰り、お母さんに今晩のことを話す。紅蓮荘のことは黙っておき、『友達の家』と伝えた。そうじゃなきゃ、絶対に認めてくれないから。


「ご迷惑だけは、かけないようにね」

「わかってます」


 二階の自室に行き、急いで荷物を用意する。誰も来ないことを確認して、ドアを閉めて。


白牙(びゃくが)召来(しょうらい)


 念のため、式神の白牙を呼ぶ。


『ここが、華鈴の部屋なんだね』

「そう。殺風景でしょ?」

『ボクは、よく分かんないな』


 とりあえず、必要な物をリュックに詰め込む。一泊だけだから、荷物は少量。


「これくらいでいいね。一泊するだけだし」

『準備できた? 行こ!』


 白牙は、私にしか見えていないから、お母さんに気づかれることなく、白牙と一緒に家を出ても大丈夫。


「それじゃ、行ってきます!」


 ***


『華鈴の母上、心配してたね』

「仕方ないよ。突然のことだし、朝から紅蓮荘に行ったままでしょ?」

『人間のことは、よく分かんない』


 紅蓮荘に向かいながら、気を紛らわすため、白牙と話す。だけど、小声で話さなきゃいけないのが、大変。


「白牙のお母さんは、どんな妖犬なの?」


 待ってましたと、言わんばかりに目を輝かせ、白牙は言う。


『すっごく、立派な方だったみたいだよ! 父上も母上も、陰陽師に仕えてたんだ』

「陰陽師って、越後の国にもいたの?」

『いたよ。えっ、華鈴、知らないの?』

「ご、ごめん」


 その時、嫌な気配を感じた。まだ昼間。それなのに、動いている。


『急ごう。まだ陽の光があたる時間なのに、動いてる』

「みんな、大丈夫かな?」


 霞ヶ森(かすみがもり)まで、あと数十メートル。

 全速力で走るしかない。


「遅くなって、ごめん。ハァ、ハァ」


 霞ヶ森を奥へと進んでいき、息を整える前に、紅蓮荘の中に入ると、階段の手前に、(つかさ)君がいた。二階に行っていたのだろう。


「りんちゃん、走ってきたの? 荷物、持つよ」

「えっ、申し訳ないよ」

「大丈夫だから」


 わざわざ玄関まで来てくれた(つかさ)君に、リュックを持ってもらい、私たちは二階へ。


「りんちゃんの部屋は、二階の突き当たりの部屋だよ。僕たちも同じ階だから、安心して」


 二階につづく階段を上っていると、ステンドグラスの窓から射し込む陽の光が、柔らかく、心地いい。


「森の妖たちは?」

「一階と地下で分かれるって」

「来たか。何もなかったか?」


 二階に着くと、響希君が待っていた。廊下の窓から、外を見ていた様子。


「遅くなってごめんね。森の近くで、気配を感じたから、白牙と一緒に走ってきたの」

「夕方でもないのに、出てきたか……」

「でも、りんちゃんが無事だったから、良かったよね」


『皆、無事でしたか。キノカサが見回ってくれていますが、昼間にもかかわらず、彷徨いているようです』


 二階にシキがやって来て、教えてくれた。烏天狗さんの様子が気になる。


「烏天狗さんは?」

『烏天狗殿は、まだ眠っています。回復の兆しでしょう』

「心配いらなさそうだね」

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