第肆話 参
「突然なんだけど、友達の家でお泊まり会することになったから、行ってもいい?」
「突然過ぎるでしょ!? お家の方は何て?」
「いいよって」
一度家に帰り、お母さんに今晩のことを話す。紅蓮荘のことは黙っておき、『友達の家』と伝えた。そうじゃなきゃ、絶対に認めてくれないから。
「ご迷惑だけは、かけないようにね」
「わかってます」
二階の自室に行き、急いで荷物を用意する。誰も来ないことを確認して、ドアを閉めて。
「白牙、召来」
念のため、式神の白牙を呼ぶ。
『ここが、華鈴の部屋なんだね』
「そう。殺風景でしょ?」
『ボクは、よく分かんないな』
とりあえず、必要な物をリュックに詰め込む。一泊だけだから、荷物は少量。
「これくらいでいいね。一泊するだけだし」
『準備できた? 行こ!』
白牙は、私にしか見えていないから、お母さんに気づかれることなく、白牙と一緒に家を出ても大丈夫。
「それじゃ、行ってきます!」
***
『華鈴の母上、心配してたね』
「仕方ないよ。突然のことだし、朝から紅蓮荘に行ったままでしょ?」
『人間のことは、よく分かんない』
紅蓮荘に向かいながら、気を紛らわすため、白牙と話す。だけど、小声で話さなきゃいけないのが、大変。
「白牙のお母さんは、どんな妖犬なの?」
待ってましたと、言わんばかりに目を輝かせ、白牙は言う。
『すっごく、立派な方だったみたいだよ! 父上も母上も、陰陽師に仕えてたんだ』
「陰陽師って、越後の国にもいたの?」
『いたよ。えっ、華鈴、知らないの?』
「ご、ごめん」
その時、嫌な気配を感じた。まだ昼間。それなのに、動いている。
『急ごう。まだ陽の光があたる時間なのに、動いてる』
「みんな、大丈夫かな?」
霞ヶ森まで、あと数十メートル。
全速力で走るしかない。
「遅くなって、ごめん。ハァ、ハァ」
霞ヶ森を奥へと進んでいき、息を整える前に、紅蓮荘の中に入ると、階段の手前に、僚君がいた。二階に行っていたのだろう。
「りんちゃん、走ってきたの? 荷物、持つよ」
「えっ、申し訳ないよ」
「大丈夫だから」
わざわざ玄関まで来てくれた僚君に、リュックを持ってもらい、私たちは二階へ。
「りんちゃんの部屋は、二階の突き当たりの部屋だよ。僕たちも同じ階だから、安心して」
二階につづく階段を上っていると、ステンドグラスの窓から射し込む陽の光が、柔らかく、心地いい。
「森の妖たちは?」
「一階と地下で分かれるって」
「来たか。何もなかったか?」
二階に着くと、響希君が待っていた。廊下の窓から、外を見ていた様子。
「遅くなってごめんね。森の近くで、気配を感じたから、白牙と一緒に走ってきたの」
「夕方でもないのに、出てきたか……」
「でも、りんちゃんが無事だったから、良かったよね」
『皆、無事でしたか。キノカサが見回ってくれていますが、昼間にもかかわらず、彷徨いているようです』
二階にシキがやって来て、教えてくれた。烏天狗さんの様子が気になる。
「烏天狗さんは?」
『烏天狗殿は、まだ眠っています。回復の兆しでしょう』
「心配いらなさそうだね」




