第肆話 壱
あの日から毎日、悪寒のような、嫌な気配を感じている。
「おはよ。今日も、だね」
「おはよ。りんちゃん、やつれてない?」
「そうかな?」
「寝不足みたいだな」
今日は土曜日。
朝から、霞ヶ森にいることにした。だって、この森に、悪しき妖は入って来れないから。
紅蓮荘で、シキと響希君、僚君と一緒に過ごす。
『まだ彷徨いているようですね。正体がわかればいいのですが……』
シキも頭を抱えているよう。
「でもね。なんか前にも、同じような気配を感じたことが、ある気がするの」
「前っていつ? りんちゃんと僕たちが、出会う前?」
「うん。小学生の頃かな。確か……。卒業式の日」
『シキ! いるか!!』
部屋の外から聞こえる、キノカサの声。
声だけでもわかる。かなり、慌てた様子。
私たちは『木の間』から出て、キノカサのいる玄関に向かった。
そこには、身体の至るところから血を流し、キノカサに支えられ、なんとか立っている烏天狗の姿が。
意識は朦朧としているよう。
『キノカサ。こちらは?』
シキが烏天狗を見て言う。
『森の中で、倒れているところを見つけた。こんな意識じゃ、名など聞けまい』
『そうですか……。とりあえず、中へ』
響希君と僚君が、キノカサを手伝って、烏天狗を『風の間』へと運んだ。
『風の間』は、普段入る『木の間』の四つ隣で、廊下の突き当たりの部屋。
中は、ベッドのみが置かれ、心地良いそよ風が吹く、不思議な空間。
「傷の手当てをしないと。シキ、救急箱はある?」
待って、りんちゃん。
そんな僚君の声が、聞こえた。
「妖の傷の手当てなら、斑牙に任せて。妖に、人間と同じような手当ては、できないんだ」
そう言って、斑牙を呼んだ僚君。
『おや、かなりの深手を負いましたね。しかも、これは……』
口ごもる斑牙。
「何? 斑牙でも、治せない?」
『治せますが、かなり複雑です。響希殿、華鈴殿。黒牙と白牙を、呼んで頂けますか?』
無言で頷き、私と響希君は、黒牙と白牙を呼んだ。
『烏天狗? 何者なんだ、こいつ』
『深手だね。しかも、嫌な奴に襲われたみたい』
「さっきから、話がみえてこないんだけど? 俺たちは、蚊帳の外か?」
式神の会話を知りたい響希君。
『響希。お前は、殺鬼を知ってるか?』
「いや」
『そうか。これは憶測だが、お前たちが感じている気配は、殺鬼のものだろう』
治療を始めるからと、シキやキノカサと一緒に、私たちは部屋から出されてしまった。
殺鬼。
それは、鬼の中でも上位に君臨する者。
人々や妖を襲うだけでなく、呪い殺し、喰らう。
並みの封印師では、封じることができないとされ、陰陽道の使い手である、陰陽師のみが封印できるとされている。
『困りましたね……』
『華鈴が前にも感じていたなら、数年前には、解かれていたんだろう』
『一体、誰が、こんなことを……』
『森に住む者たちをここに呼び、話し合わねばならないだろうか』
『あの方の回復を見て、決めましょう』




