第参話 陸
割れ鏡。
その破片は、普通の人には見えないもの。
「この破片の中?」
『そうだよ。この中に入って、護符の封印を解くことになるけど、誰が行く?』
「俺が行く」
響希君が名乗り出た。
『ならば、俺が呪文を唱える。響希、その破片を持て』
響希君と黒牙が、鏡の中の永世に行ってしまう。
「必ず、戻って来れるんだよね?」
『もちろん。上手く行けばだけどね』
「華鈴。そんなこと考えるな。必ず、戻って来れる」
響希君が破片を持つと、黒牙が呪文を唱え始めた。
『我らを繋ぎし写し物 汝の世界に 参らんことを』
みるみるうちに、鏡に吸い込まれていった、響希君と黒牙。
「大丈夫だよね」
数分後、着物を着た女性を連れ、響希君と黒牙が戻ってきた。
***
「小峰さん、お待ちしてました」
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「いえ。大丈夫です。時間はまだあります」
放課後。
旧校舎側にある、来校者用の駐車場で、小峰さんを待った。
そして、四人でトンネルに向かう。
外を歩く先生はいない。見つかったら一大事。
どうか、バレませんように!
「この中に、小峰さん、あなたのひいお祖母さんがいます」
「うん……」
一歩ずつ、ゆっくりと、中へ入っていく小峰さん。
私たちも、少し離れて後を追う。
「貴女が、スギハナさんですか?」
トンネルのほぼ真ん中の壁。
そこに、もたれるように立つ着物の女性に、小峰さんが声をかける。
『お前、何者だ?』
訝しげな女性の声。
「俺は、貴女の娘、千鶴の孫です。だから、貴女のひ孫です」
『ちづる? ひ孫?』
「はい。貴女を、封印から解きたかった。祖母が、貴女の娘が、会いたがっています」
『千鶴。あたしの一人娘……』
スギハナは、足から崩れ落ち、泣いて泣いて。
『千鶴は、どこにいるの? 一人では何もできない子だから、今すぐ行かなきゃ。鏡、割れたんだ。新しいのを、すぐに……』
「千鶴は、ここから少し離れた場所にいます。一緒に、来ていただけますか?」
『いるのかい。千鶴が、会いたがっているんだね』
「いつも、貴女の事を、話していますよ。あの時割れてしまった鏡を、今でも大事にしています」
『良かった……。それは、良かった』
「スギハナは、もう完全に妖になっている」
私たちにだけ聞こえる声で、響希君が教えてくれた。
「響希、それはどういうこと?」
「人間と妖の寿命は違う。人間の寿命は終わり、妖としての寿命で生きている」
「じゃあ、普通の人には、見えないんだね」
「そうなるな」
だとしたら……。
「ねぇ、小峰さんのお祖母さんは、まだ見えるのかな?」
「少なからず、妖の血が入っている。大丈夫だろ」
「でも、認知症って……」
「心配しすぎだよ。りんちゃん」
そうだよね。
心配しすぎてるかも。




