第参話 肆
この地に、半分人間で半分妖の、女半妖が住んでいたという。
姿はごく普通の人間と変わらないが、妖力を持つ為に、人間は皆、彼女を恐れていた。
だから彼女は、いつもひとりぼっち。
彼女の名も、両親も知る人間は誰もいない。
妖も、人間の気配を身に纏った彼女を嫌っていた。
ある日。女半妖が、神社の境内の大木に登り、昼寝をしていた時のこと。
『娘が大木に登って昼寝とは。神様はさぞかし、ご立腹だろう』
彼女は、聞いたことのない、男の声で目を覚ました。
『危ないから、降りてきなさい。枝が折れて、怪我でもしたら、どうするんだ』
――人間が、わたしに話しかけてきた。おかしな人間――
大木の上から下を見ようと、彼女が身を乗り出した瞬間。
枝が折れてしまい、勢いよく、地面に叩きつけられ……。
――これで、死ねる――
彼女は目を瞑った。
***
「この続きは、見れなかったの」
トンネルの中で、昨夜見た夢を話す。
「この後って、下にいた男が、女半妖を抱き抱えて、助かったんだよね」
「その後二人は結ばれて、幸せかと思われた。が、女半妖は封印され、男は行方不明。おしまい」
「ちょっと、響希! 何、その終わらせ方!」
「本当の事だろうが」
「まぁまぁ、二人とも。それにしても、なんだろ、気味が悪いって言うか……」
「それは多分、呪詛のせいだろうな。俺は平気だけど」
「僕だって、気味悪いよ。響希は強がってるだけだから、気にしないで」
コホン。
響希君の咳払い。
「式神を呼んだ方が良さそうだな」
「呪詛払いできたっけ?」
「多分」
そう言うと二人は、紙人形を制服のポケットから取り出し、式神を呼んだ。
『なんだここは。呪詛が満ちているじゃないか』
『人間が長時間いたら、呪詛に殺られてしまいますよ』
「そんなに、ヤバい呪詛か?」
『そうですね。我々ではなんとも……。できかねます』
斑牙は、私を見て続ける。
『華鈴殿。貴女の式神なら、浄めの一波を放つことができます。呼んで頂けますか?』
「う、うん。だけど、まだ呼んだことがなくて。名前も知らないし」
『大丈夫。手のひらに、紙人形をのせてください。目を瞑ると、自然とわかりますよ』
斑牙に言われるがまま、制服のポケットから取り出した紙人形を、手のひらにのせる。
――白牙――
まぶたを開き、その名を呼ぶ。
「白牙、召来」
手のひらから落ちた紙人形。
煙に包まれ、煙がはれると、白い妖犬がそこにいた。
『ふぁあ。よく寝た……。ん? 君が、ボクの主?』
「雪村華鈴です。よろしくね、白牙」
『よろしく、華鈴。それで、ボクは何をしたらいいの?』
『白牙、寝起き早々だが、呪詛払いだ。浄めてほしい』
『黒牙、斑牙姐さんもいたんだ。いいよ。じゃ、やるから、ボクから離れて』




