第弐話 伍
翌朝。霞ヶ森へ行き、シキに相談するために、いつもより早く、家を出た。
朝の霞ヶ森は、夕方と少し雰囲気が違う。
妖たちは、まだ寝ているみたいで、とても静か。
「朝に来るのは、はじめてだなぁ。月島君たちは、朝に来ることあるのかな」
朝露に濡れた山草を踏みながら、紅蓮荘を目指して歩く
「ゆっきむらさん! おはよ!」
「わぁあっ!」
「ごめん! 驚かせるつもりなかったんだけど」
背後から急に、花里君の声。
あの時みたいに、私は、驚きの声をあげる。
「おはよ。花里君」
挨拶をそこそこに、一緒に紅蓮荘に向かう。
「珍しいね。雪村さん、朝に来ることなかったでしょ?」
「ちょっと、シキに相談があって。それで」
「そっか。依頼、ひとりだと難しい? 大丈夫?」
「大丈夫。心配してくれて、ありがとう。もうすぐ終わるんだ」
ホッとした花里君の表情。
「よかったぁ~。僕も響希も心配してたんだけど、大丈夫なんだね」
月島君にも花里君にも、依頼があったはず。
それなのに、私の心配をしてくれてたんだ。
「ねぇ。雪村さんのこと、下の名前で呼んでいいかな?」
「えっ!?」
いきなりのことで、さっきよりも、驚きが隠せない。
「だ、ダメだよね! そうだよね! 女子の、下の名前を呼ぶなんてね! 男としてどうなんだってね!」
花里君!? どした!?
「ぜぜぜ、全然、大丈夫だよ! 私は、そんなこと気にしないし、大丈夫だから!」
何言ってんの、私!
お互いアタフタして、混乱している。
「お前ら、何してんの?」
月島君!?
私たちの前方から、歩いてきたみたい。
「森中に聞こえてんぞ。お前らの声」
「響希、聞いてよ~」
「何を? 雪村のことを、下の名前で呼ぶことをか?」
「もしかして、僕たちの話の内容まで聞こえてた?」
そんな会話をしながら、紅蓮荘に向かった。
「で、雪村は、シキに用なのか?」
「うん。頼みたいことがあって……」
「そうか……。ひとりでの依頼、難しいか」
「依頼は、もうすぐ解決できるの。ただ、依頼主のことで、シキに相談したくて」
***
『なるほど。話はわかりました』
「てまりが言ってた、『時間がない』ってどういうことなのかな」
『てまり殿は、華鈴に話してないようですね』
「シキは知ってるの?」
短い時間だけど、間があく。
『てまり殿は、もう永くはありません』
永くはない? どうして?
「えっ……。なんで?」
『心の臓を患っています』
「心臓が……」
『本日中に解決させるのでしょ? てまり殿は、人間姿での恩返しがしたいとのことですので、用意はしていますよ』
私の知らない所で、シキとてまりの間で、何かやり取りがあったのだろう。
「雪村、そろそろ時間になる」
「急がないと、先生に怒られちゃうよ~」
『木の間』の外で待ってくれていた月島君と花里君の呼ぶ声。
『そんな時間ですか。それじゃあ、華鈴。これを、てまり殿に渡してください。これは、姿身の羽織。妖が羽織ると、人間の姿として見えたり、普通の人間に、姿が見える羽織です』
シキは、白地に菊の模様のついた羽織を、テーブルの上に置く。
「シキ、ありがとう」
シキから羽織を受け取り、私は『木の間』から出た。




