第弐話 肆
その日の夜、不思議な夢を見た。
学校近くの小さな橋を、一匹の三毛猫が、フラフラと歩いている、そんな夢。
***
何も食べなくなり、今日で十日目。
ネズミの一匹でもいたら、いいのだけれど。
カラスが、わたくしを見ているようですが、弱ってますからね。
わたくしが倒れた時、あなた方は、わたくしを食べるのでしょ。
ん?
なんでしょうか、この影は……。
「猫ちゃん、大丈夫? これ食べる?」
おや、人間の少女ですか。
わたくしに話しかけてくるとは、珍しいですね。
しゃがんで、何をするつもりです?
「食パンの耳だけど、猫が食べても大丈夫だよね? 」
しょくぱんとやらは、食べ物なのですか?
今は、何でもかまいません。いただきますね。
(ムシャムシャ……)
なかなか、美味ですね。
「おなか、すいてたの? 良かった……」
どうかしましたか? お嬢さん。
「猫ちゃん、ひとりなの?」
ニャー。(ひとりですよ)
「そう。猫ちゃん、ひとりなんだ」
ニャー。(いつもひとりですよ)
「元気出してね。もう少し食べる?
ニャー。(ありがとうございます)
「よしよし」
頭を撫でてくれたのは、貴女がはじめてです。
おや? これは何でしょう。
あぁ。花びらとやらですか。
ニャー。(落としましたよ、お嬢さん)
「そろそろ行くね。バイバイ、猫ちゃん」
行ってしまわれるのですか?
花びらはどうしましょう。
お礼でも、できたらいいのですがね。
***
コンコン。
誰かが窓を叩く音がする。
ここは二階。
誰も窓を叩くことはできないはず。
起きて、カーテンを開けると、窓枠に一匹の三毛猫。
お行儀良く座っている。この気配は、てまり?
『夜分遅くに、申し訳ありません。華鈴様』
「いえ。何か用ですか?」
『見つけていただけましたか?』
「見つけました。私のクラスメイトでした」
『そうですか。良かった……』
冷たい夜風が、部屋に入る。
「中に入りませんか? 外は寒いでしょ?」
『お言葉に甘えさせていただきます』
ピョンと中に入ったてまりは、なんだか元気がないように見えた。
『わたくしには、時間がありません。明日にでもお礼をしたいのです』
「急ですね……」
『難しいですか?』
「お時間がないと言うことですが、どういった理由ですか?」
『今は、お話しできません。いずれ、わかっていただけるかと……』
何か重要な事件だろうか。相談したくても、今は夜中だし。
「わかりました。なんとかします。ですが、てまりの姿は、普通の人には猫にしか見えないんですよね? もし、人間の姿で恩返しをしたいのであれば、かなり難しいですよ」
『そこをなんとか、お願いいたします』




