第壱話 陸
わたしと桜子が友人になって、月日が流れた。
桜子が十六の年。
桜子は、結核と言う名の病を患ってしまったのだ。
わたしは、初めて祠から離れ、桜子の家へ向かった。
大きな豪邸でな。
桜子の部屋は、奥座敷の一角にあった。
桐だんすと、文机のみが置かれた広い部屋に、桜子は寝ていたよ。
来てくれたの?
何もするとこがなくてな。
身体はどうだ?
少しは良くなったか?
今は少し落ち着いたわ。
それにしても、退屈ね。
寝ているばかりよ。
見舞い代わりに……。
あら、綺麗なスミレ。
私、スミレの花が好きなのよ。
桜の花と同じくらいに。
ありがとう、篠霧。
毎日とはいかなかったが、桜子の部屋に通った。
日に日に弱っていく桜子を見るのが怖かったがな。
しばらくすると、桜子はこの家に越した。
華鈴、そなたが見たのはきっと、わたしと桜子の最後の会話だろう。
この家に越してすぐ、わたしは会いに行った。
あの日、喜んでくれたスミレの花を持って。
数日後、桜子は最後に渡したスミレの花を手にし、息を引き取った。
看取ることができなかったが、岡ノ原の祠の中で感じたよ。
『桜子が、この世からいなくなった』と。
悲しみにくれ、何年もの間、祠から出れなかった。
桜子の遺言が、わたしを祠から出してくれたのだろうな。
『桜色の根付けを、探して欲しい』
それが、桜子の唯一の願いなのだから。
***
「篠霧。桜子さんは、なくしたわけでも、落としたわけでもなかったんだよ」
『どういうことだ?』
「ごめんなさい、篠霧。見てしまったの。桜子さんから、篠霧への手紙を。根付けの中に入ってるから、読んでみて」
根付けを開け、篠霧は1枚の小さな紙を取り出す。
広げると、そこには、桜子さんが篠霧に残した言葉が。
私の友人、篠霧へ。
貴方と会えたこと、貴方と話せたこと。
それは、私にとってかけがえのない、楽しい時間でした。
友人のいなかった私の、唯一の友人になってくれてありがとう。
結核を患ってしまった後でも、貴方は毎日来てくれた。
嬉しかったわ。
ありがとう、篠霧。
神様と友人になれたことは、今でも信じられないの。
根付けを貴方が見つけてくれて、この手紙を読んでくれているなら。
私は貴方に伝えたい事があります。
かけがえのない友人となってくれた、いつも傍にいてくれた、篠霧のことを。
私、桜子は、大好きです。
たとえ、この世から消えたとしたも、この気持ちは変わりません。
もしも、来世で会えたなら、次は直接伝えますね。
篠霧にこの想いが伝わることを願って。




