1ー5 千種 愛
夏海を探しに校舎裏に来た時、愛は急に暖かい物が自身の中に入って来るのを感じた。
ここに夏海がいる。
愛は乱れた呼吸を整え、ゆっくりと歩を進めた。
「……夏海こんなところにいたの?」
ゆっくりと近づきながら言う。
空き教室の片隅で体育座りをして俯いている夏海。
愛の声が聞こえたのか、姿勢はそのままであったが愛の声にビクッと反応した。
「……大丈夫?」
「……。」
「……隣座るね。」
「……うん。」
そのまま無言で夏海の隣に座る愛。
昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。
しかし、二人はそのまま座ったままであった。
「優等生が授業出なくて良いの?」
「今は授業より夏海といるのが良いの。」
「……馬鹿。」
「少なくともあんたよりは賢いよ。」
再び静寂が訪れる。
隣の愛の肩に頭を乗せる夏海。
それを無言で受入れた愛は静に微笑んでいた。
夕日に照らされる教室の中、未だに二人は座っていた。
二人とも無言でも心地良く、満たされていた。
いつまでもこの時間が続けば良いとさえ思えた。
「私さ……。」
数分か、それとも数時間か。
音のない二人だけの世界の静寂を破ったのは、夏海だった。
そんな彼女の声を無言で聞いている愛。
「土曜にさ、さっきの子の愛を食べたんだ。いや、無理矢理食べさせられた、かな。ははは。」
「……。」
「それでさ、すっごく不味くって……はは、びっくりしたよ。」
夏海の声が震え始める。
「ゆっくりで良いよ。」
「……ありがと。それでね、凄い怖くて……今までこんなことなかったのに……。」
「そうなんだ。」
「それでね、その……多分あの子、私のことそういう目で見てたんだと思う。」
「……そうなんだ。」
それ以外何も言えない愛。
「友達としてとかの好きってのは同性からもあったと思うんだ。……でもあんな直接的なのは初めてで……。」
「……。」
「……いや、違うかな。……そうだよね、愛?」
「……うん。ごめんね。」
「ふふ……私も人の事言えないけどね。……厄介だね、私達。」
「似た者同士……お似合いかな?」
「そうかも。」
辺りはもう暗く、廊下を照らす蛍光灯の明かりを頼りに、二人は互いを見つめあった。
ゆっくりと顔が近づき、二人は目を閉じた。
千種 愛の章完
次章
2018年5月12日公開予定。