冒険の旅に行きたくない!
オレは横暴な行商に依存しなくても自前で販路を拓くことで収益力のアップを説いた。
「ただのう、商売を始めるには国王の許可がなけりできん。行商はお上と繋がっとるから強いんじゃ。」
村長の反応は芳しくなかった。
たしかに、オレは単純に行商なしでも自活できる提案だけ考えていたが、行商の一番の強みは王都の中央政界との太いパイプだ。虎の威を借りてキツネが好き放題やってるのだ。
うん、たしかに公共事業の入札の談合には「参加しない」と言うのは簡単だが、それ以後政治力で、業界からつまみ出されたり、仕事を干されたりすることが一番恐ろしいのだ。
「ちょうどええ、これから話すことが2つめの相談じゃ」
一呼吸おいて村長は語り始める。
「なぜ、この村に若い男がおらんのか、しっておるか?」
「なぜ、ですか?」
これまで気になってはいたが聞こうにも、聞くことが許されないような、悪いような、そんな空気だった。
「兵隊じゃて。長い間、わしらが服属しておる王都サンタコルデは近隣の都市と戦争をしておる。かれこれ100年間はずっと休戦しておったが、昨年から王が代わって急に始めおったんじゃ」
「で、アリルの父でオレの弟のカイも兵隊として駆り出された。戦争の駒につかわれて死んだのか、辺境におくられたのか、わからん」
レツさんが付け加えて言う。そうか、手紙を書こうにもこの村だけなのか国全体なのかわからないが、大人の識字率はすこぶる悪い。安否の知らせようがないのか。それ以上に、こんな田舎の村では情報が伝わらないのか。
「カイだけじゃない。この町の18歳から50歳までの男はことごとく連れて行かれた。だからこの村には若い男は全くおらんのじゃ。じゃからな、行商の真似事をしようにも、若い男手が足らん」
村長は言い終えると深いため息をついた。
「しかしどちらにしても、今回のベオマなどの魔物の進入は今後も充分予測されるしの、王都サンタコルデに少しは男手を返してもらうか、兵隊を常駐させてもらうか・・。どちらにしても報告とお願いに行かねばなるまいの」
「・・・しかしワシもトシじゃし、今は魔物も出るようになったし。王都で交渉事もたくさんあるし、一緒に誰か言ってくれんかのう」
チラッ・・チラッ…ってさっきからずっとこっち見てるよ!
「ハチロー!呼ばれてるよ!」
っておい!アリル!空気よめ!あえて無視してたのに!
「おお!ハチロー!言ってくれるのか!」
「え、ははあ。」
余計なことを!オレはこないだのベオマのような、あんな怖いヤツらがウヨウヨするところ命かけて行きたくねーんだよ!コウゲンさんやレツさんがいきゃいいじゃんか。
…でも養われてるのに、頼まれたら断れねーじゃねーか。
「ではレツとハチロー、ワシとともに、王都に行こう。護衛としてケンゴウ、ゴランを連れていく」
ライドウ・ゴランはこれからの村を背負う17歳になる屈強な少年達だ。
レツさんと彼らが一緒に居てくれるなら少し安心かな。
「は、はあ」とオレが渋々感全開で同意をすると
「わかった」
とレツさんも即同意する。
「ハチローが行くならあたしも行く―!!」
「お前は女だ、危ない!」
「女でも小弓は負けないもん!あとおじさんと違って計算できるし」
レツさんに即座に反論し、レツさんもうぬぬ、と返す余地がないようだ。
「決まったようじゃな。皆、荷駄の準備をせよ。明日早朝に王都にむけて発つ」
「「おう!」」と屈強な男たちが返事をする。
オレは?まあ渋々返事したよ。営業は同調圧力に弱いのだ。
更新が遅くなりました。
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