ステージ2ベオマの群れをやっつけろ
「あの、提案なのですが、奴等の生態を利用して一網打尽にできみませんかね?」
「なるほど!」
周りのオッサンたちは一気にテンションがあがる。
「これならやれるかもしれん」
オッサンその2―たしかコウゲンさんとかいったか。
「そうか!火か。これまで森に入った戦士がベオマに喰われた。これが本当なら、そして本当に計画が実現できたら助かるかもしれん。字が読めるハチローがベオマの弱点を見つけてくれた!」
うおー!と雄叫びをあげて、オッサンその1―つまりレツさんが鼻息を荒くして言う。
それから村の住民が総出で動きだした。
「生き残る道はそこしかないんじゃ」
と村長を先頭にオッサンたちが説得をしたのだ、やるな、じいさん。
子どもや女たちは薪を拾い集め、家の中にある薪も全てもってきて、高い村を取り囲む壁のまわりにかがり火を焚く用意をする。
そして唯一かがり火を焚かない小屋。昨日モーが襲われた畜舎だ。モーでも、ベオマでもゆうに100頭は入るはずだ。
年よりしかいないが、動ける屈強な男たちは、この小屋を頑強に補強し森に向けて開かれた入口以外の穴は全て塞ぐ。
「おーい!ハチロー!これ持ってきたぞー!」
レツさんの手に持つ大鍋にはモーの内蔵をばらした時に出た脂がたっぷりと入っている。
「あ、それは、ここにある古着によーく染み込ませて」
と叫ぶと、周りの女性たちがよってきて一気に作業に取り掛かる。
染み込ませた布は手に持ってちょうどいいサイズの棒に巻き付かせて、“たいまつ”をつくっておく。この世界の牛脂は融点が低く≪めっちゃよく燃えるのよ≫とアリルさんが夕飯の肉を焼くときに教えてくれたのが思いついたきっかけだ。
屋のまわりに巻き付けておく。その上に薪、枯れ葉そしてメーやモーの脂を撒く。
小屋のなかには昨日襲われたモーの死骸。そして、モーやメーの血液や内臓を入れた樽をそこらじゅうにぶちまける。
さらに生きているモーを5、6頭入れておく。
モーには仲間のむくろと一緒に閉じ込められて、エサも与えられず泣き叫ぶ。
グロいぜ。
これから起こることを想像すると、うわー、かわいそう(T_T)
この世界の太陽が南へ沈み始める。夜のとばりはそろそろ落ちる。
《オオーン!!》
遠くからベオマの遠吠えがきこえた気がした。
「いそげ!もうすぐ日が沈む。ベオマが来るぞ」
オレは一生懸命声を張り上げる。
「急いで村の壁の中に入って!男の人たちは物見台に集まって!女性と子どもは村長の家にあつまって、頑丈に扉を閉めて!」
村長の家は頑丈だ。あそこなら朝まで持ちこたえられるかもしれない。
山裾までを見渡せる物見櫓にあがると、夕陽がはるか彼方で沈んでいくのが見える。
それと同時に宵闇のむこうから何匹ものベオマの群れが蠢いて、こちらに向かっているのがうっすらとみえる。ちらほらとゴブリンも混ざっているようだ。
「来たよ!!60頭くらい!」
同じく物見櫓にあがったアリルが叫ぶ。
「アリルは、村長の家に行け!」
さっきから何度も促しているのにアリルと数人の女達だけは言うことを聞かない。
「アタシはハチローより、はるかに目がいいし、足も速いよ!弓だって父さんに習って使える!女だからって、守られるばっかりじゃないんだから!」
この世界では女は家庭の仕事、男は外の仕事と、元の世界よりハッキリ区別されている。
電気もない、ガスもない、洗濯機も掃除機もない。だから、家事労働の負担が重いからというのもあるだろう。
しかし、アリルは違うようだ、彼女の肌の色は透けるように白く、髪色は明るく、大きな瞳の色はブラウン。華奢な腕で見事に弓を引く。
しかし、ゴブリンに襲われそうになったときのように、接近戦だと男のようにはいかない。だから言ってるのだ。
「だけどなっ!」オレが言おうとした瞬間、
「先頭集団がモーの小屋に到達するぞ!」
オッサンのひとりが叫ぶ。
「火をつける用意を!」
ベオマの群れは次々と小屋の中に吸い込まれていく。
《ブモー!!!》
モーの断末魔が聞こえる。
《ガルル!!ガゥ!》
ベオマが我先にモーに食らいつきグチャッ!グチャッ!という音も聞こえる。聴いていて気持ちが悪くなる。
「ベオマの後方集団も小屋に到達!」
「レツさん!コウゲンさん!」
オレは誰よりも屈強なこの村の男たちの名前を呼ぶ。
「「おう!!」」
小さな通用門が開き、屈強なオッサン達は頭に火のついた“たいまつ”を巻きつけ、右手には槍や斧、左手には、同じく火のついた“たいまつ”を持つ姿で現れた。
我先にと小屋に向かうベオマの群れを
「「ガゥ!ガゥ!」」
と叫びながら後ろから追いこんで行く。
群れの8割りほどが小屋に入ったようだ。
「小屋の入り口を閉めて!!!」
両側からスライドさせ、重い金属の引き扉を閉める。
“ガシャン!!”
「火を!!!」
言うと同時に小屋に火がつけられあっという間に炎に包まれる。
レツさんやコウゲンさんたちはその間もたいまつを振るいながら、入らなかったベオマと闘っている。
小屋がみるみるうちに炎に包まれる!
「撤収して!!」
「ハチロー、援護は任せて!」
アリルや数人の女たちは火矢を小屋に入らなかったベオマに射かける。火矢が刺さったベオマにこんどは上からモーやメーの脂をかける。
火に包まれたベオマの姿は霧消し、銀や銅色に光る玉がそのあとに残る。
レツさんやコウゲンさん達近戦部隊も全員撤退できたようだ。
小屋は夜更けまで燃え続けた。
オレは最後まで小屋が燃え落ちるのを待ち、櫓を降りる。
太陽が北から昇り、オレはレツさん達と焼け跡に足を踏み入れる。
炭になったモーの肉の焼ける臭いが鼻につくが、ベオマの姿は死骸はおろか、骨すら見当たらない。その代わり焼け跡からは、銀や銅色に光る玉がそこかしこに転がっている。
ようやく勝利を実感できた。
「オレたちは勝ちました!!ベオマに勝ったぞー!」
「ハチロー!!」
アリルが首に抱きついてくる。
胸が‥ああ、疲れていても体は正直なのだ。
「おー!!!」
住民たちの歓声があがる。
「ハチロー!ようやってくれた!お主はこの村を救ってくれた!魔物は用心深い。やつらは当分村へは近づかんじゃろう」
その日は村をあげての大宴会になったようだ
‥‥オレは寝落ちしてたから、わからない。
冒険はまだまだはじまったばかり。
いつもお読みくださり感謝しています。
不馴れですが、今後ともよろしくお願いいたします。
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