ステージ1:牛追い
「アンタ、名前は?」
!!ようやく名前聞いてもらえた!!!
「浮田八郎です」
「変な名前だな」
ヘンで悪かったな!もうこの世界に来てからヘンとか言われてばっかりだよ。へこむわー。
現実世界では8男なの?って聞かれてたけど!「長男だけど、末広がりで演技がいいって八郎ってつけたんです!」って答えて「ふーん」で終わってたけど!
「ハチロー、そんな服じゃ仕事もできん、コレに着替えろ」
「は、はぁ」
この街の男は麻袋を頭から被ったような服と、同じく麻のような素材のズボン、それを腰できゅっとロープで縛る、質素でシンプルな素材。これが通常のようだ。
こりゃ軽くて動きやすいし、汚れも気にならない。
太陽はゆっくりと西へ傾いていっている。15時くらいか。
「うちはモーとメーを飼っている。そいつらの世話をしてもらう」
モー?メー?と変な顔をしていると、
「アレのことだ」
とレツが指差す。
草原のむこうで草を食べている、角が3本あるウシのようなやつがモー、角が両側に2本ずつ生えている羊のような毛の長いヤギのようなやつがメーだ。
「そろそろ夜が来る。夜になるとこのあたりもサーバルがくる」
「サーバル?」
「モーやメーを襲うネコだ。人間も夜に村から出ると食われる」
こわっ!てかネコってあのネコ?
「あいつらを追い込んで小屋に入れてくれ」
…
モーは現実世界のウシよりひとまわり小さい。逆にメーは羊より大きい。
さてどうするか、と思っていたところ、
「オジサン!」
さっき助けた美少女だ。
「えーとアリルさん、だっけ?」
「そう、覚えてくれてたんだ!嬉しい!」
満面の笑みで微笑む。可愛い。
さっきはやはり緊張と恐怖で混乱していたようだが、落ち着いたようで、安心だ。
「もう、足はいいの?」
「うん、オババの薬はよく効くのよ!」
「そりゃよかった!」
なによりだ。
「モーとメーを追うのは難しいのよね。なかなか言うことを聞いてくれなくて、お父さんなら上手に出来てたんだけど、レツおじさんも大変みたい」
“お父さん”は今いないようだ。あまりプライベートを詮索しないのも営業の鉄則だ。
しかし、牛追いかあ、高校時代を思い出すぜ。しばらくしてないからできるかな。
「うぉーい、おい!」
オレは枝を持ち両手で大きく降りながらモーを追う。
すると、モーもメーもぞろぞろと動き出した。
こりゃ、現実世界より楽々だわ。
時に左手の棒を動かし、右手を動かしながら、小屋へと誘導する。
…
夕陽は西に傾き、赤く大きく見える。
「よし、これでいいかな」
「オジサンすごーい!」
手を叩いてアリルが誉める。
「ふむ。」
とレツさんも頷く。満足げな様子にひと安心だ。
田舎の農業高校を出ててよかったとほっとするわ。まさか異世界でそのスキルが発揮されるとは思わなかったけどな。
久しぶりに体を動かしたから、もう足も腕もがくがくだよ。
…
「今日はほんとによくがんばってくれた。明日からも頼む」
相変わらず険しい顔をしてレツさんは言う。怖いよ。その顔で言われると明日が怖いよ!
「さ、コレ、お酒!これ飲むと疲れもふっとんじゃうよー」
アリルが乳白色の酒を出してくれた。
「オババがメーの乳でつくったんだよ!モーの肉もあるよ」
旨い!こりゃ旨い!働いたあとのメシは旨い!
もう、幸せだよ!
アリルちゃんも旨そうにお酒飲んでるしよ!…あれ?
「えーとアリルさんはおいくつ?」
この美少女、どうみたって12~3にしか見えんけど。
「…オンナに歳を聞くのは結婚を申し込むときだけだ」
うっ!レツさんの目が鋭くオレを突き刺す。目で人を殺せるんじゃね?この人。
「ぽっ…(*´ω`*)」
ぽっじゃねーぞ!アリルちゃん、見ず知らずの男に気安すぎやぞ!
「…21だ。」
レツさんが改めて教えてくれてくれてびびった。
なんでも、村を流れる沢の水とメーの乳酒を飲んだら若返るんだと。
ちなみにどうみたって40代のレツさんは61歳らしい。髪はフサフサ、肌はつやつやのマッチョマンだ。そしてなにより眼光が還暦じゃねー。
「…おまえハゲてるな。」
レツさんがぼそっという。
ハゲてねーよ!ちょっと薄いだけだよ!ブッ飛ばす!と思ったけど、怖いからやめといた。
「この村の男はムロジの木の実の汁を髪につけている。そうしたらハゲないぞ」
…そういえば村長もハゲてない。白かったけど、ハゲてない。村の住人も。これまでもありとあらゆる毛髪活性剤をつかっても効果がなかったオレの頭。まさかのふさふさか!?
「そそそそれは!!?どこにあるの!?」
「ここにあるよ」
陶器の壺にいれられた灰色の液体をアリルちゃんが見せる。
「ここここれ!つけてもいい?」
「いいよ。てか、ものすごい食いつきだね!マジウケる!」
手を叩いて、アリルちゃんがバカウケしているし(T_T)
いつかオレもフサフサになってやるー!
月にむかって吠えるのであった。
ワオーン!と森の方で鳴き声が聞こえた気がした。