君の名は…(って誰も聞いてくれない)
オレの名前は浮田八郎。
36歳。
若さと渋さの間で揺れる、頭髪と腹回りが気になるお年頃だ。
残念ながら独身だ。
彼女いない歴は15年。
周りには「あえてつくらないんだよ!」って言ってるけど、じつはあえて“できない”だけだよ!クソっ(T-T)
西日本の片田舎で、中小企業で事務機器の営業をしている。
いや、していた。
契約を取りつけてウキウキして入った場末のラーメン屋。
クソオヤジにミソチャーシューメンネギ大盛りを頼んだけど、一口食った瞬間に異世界にぶっとばされた。
クソオヤジしばく!
で、ゴブリンとかいう緑色の大男に襲われた女の子を助けた。
ゴブリンの鼻にスッポリ革靴を突っ込んだら、たぶん臭いで死んだ(?)
で、そのアリルとかいう女の子を担いで村まで来て、重くて死にそう。なのに村の人たちには怪訝な顔で睨まれた。←イマココ
…
村に入ると、土壁の家々、窓には色とりどりのステンドグラスのようなガラスが嵌め込んであり、とてもキレイだ。朱色の屋根瓦とのコントラストが趣がある。
馬や牛、羊かな?鳴き声が聞こえる。
カンカンと、鉄か何かを叩く音も聞こえる。
子どもたちや女性、お年寄りが賑やかに行き交うのに若い男がほとんど見えないのが、なぜか気になった。
しかし、なんで若い娘はオレを見ると隠れる?
照れ屋さんなのか?
街の商店は軒先の商品をさっと隠す。
照れ屋さん…じゃないよな。
オレは
「村長が呼んでいる」
とのことで、村長の家に連れていかれた。
「はいれ」
周囲より、一際大きな家に入るよう促される。
「失礼しまーす」
入るとそこは簡素な作りの邸宅だった。
屋内も土壁で部屋が仕切られ、オレは赤い縦断の敷かれた広い部屋に案内された。
「やあ、どうも」
もったいぶって家の奥からひとりの老人が現れた。
「こんにちは」
オレは軽く頭を下げる。
「このたびは我が村のアリルを助けてくれて、感謝申し上げる」
「わしはこの村の長をしておるジョウと申す」
いかにも「村長でござい」という風貌の村長が頭を下げる。
「何か礼がしたいが、この村は貧しくてな、たいしたものはないのじゃ。村の娘も未婚の娘はまだ若いし…なにとぞ、勘弁してもらえぬか…」
村長が手を合わせて深々と頭を下げる。
「いやいやいや…!!!ちょ、ちょっと待って!」
「へ?」
「何いってんの?!」
「娘を助けた礼に、何かを差し出せ的な?」
「言ってねーし!」
「そうなの?」
ジジイ、オレを何だと思ってやがる。これでも親切丁寧、安心と信頼の㈲あんしん事務器のトップセールスマンだぞ!(自称)
「そんな変な…じゃなかったちょっと独創的な風貌なもんじゃから、また国王様からの密偵かと思いましたぞ」
今、変なって言ったなジジイ
「密偵じゃないですよ。ただの営業マン…じゃなかった、行商です」
村長はふぅ、とため息をついた。
「密偵はいつも行商だって言ってくるくのです。そして何かとムチャな要求をふっかけてきて、応えられないと、あることないこと報告をするぞ、、と脅すのです」
それ…ぜんぜん密偵じゃないじゃん…。
「ようはそれと間違えたと」
そうか、それで街の人達の反応があんなに冷たかったのか。
オレがキモいわけじゃないのか、よかった。
「あのう、働きますので、しばらくここに居させてもらうことはできませんか?」
「へ?」
「私、旅の行商なのですが、気がついたら、身ぐるみはがされて、すぐそばの原っぱで寝かされていたのです。
そして、なぜか、この国のことが全く思い出せないのです。先程のゴブリンのことも、国王様のことも、世界のことも、少しずつ思い出しますので、それまでどうか村に滞在させてくださいませんか?仕事はしますので!お願いします!」
営業マンの得意技、“うまくとりつくろって、は言い訳をして相手を納得させる!”どや。
「行商してたって記憶はあるけど、それ以外は記憶ないってこと?」
う、このジジイ鋭い。
「そ、そうなんですよ!」
「ほう、それはそれは。まあ、悪い人じゃなさそうですしの。しばらく滞在されるがよろしかろうよ。働き手は不足しており、いくらでも仕事はありますでの」
とジジイ改め村長が言うと、
「これ!レツ!レツはおるか」
「へえ、村長」
さっきの屈強そうな五十がらみぐらいの男が現れた。
「このお方は密偵じゃあないそうだ、旅の方で記憶を無くしとられるそうじゃ。働く代わりに滞在させてくれとよ。おヌシのところは人手が足りておらんじゃろ」
「へえ、じゃあ、ウチで使わせてもらいやす」
レツと呼ばれたオッサンは頭を下げる。
そして、オレに来いよ、と促す。
「アンタ、名前は?」
!!!!ようやく名前聞いてもらえた!!!
「浮田八郎です」