第一村人発見、第一モンスター遭遇
くそー!!
と叫んでいると、草原の向こうから
「キャー!」
と言う声が聞こえる。
オレは“まだ”何もしてないぞ!
と思ったが、
「キャー!助けて!」
切羽詰まった声。
どうやらオレじゃないようだ。ほっ
じゃあ、なんだ、とオレは声のする方に走っていく。この革靴走りにくい。
ぜえぜえ、運動不足だよ。坂道つらいよ。
息切れしながら駆けつけていくと
《ウガー!!!!》
190㎝くらいの大男が、少女をくみしいている。この男、頭の毛は無いし、顔は緑色。鼻は長く垂れ下がっている。
明らかに人間じゃねー!
「やめろ!」
と大声で叫ぶも、緑オトコ、無視。
緑オトコは自らの露出した下半身をいきり立たせて、少女に押し付けている。
「くそー!無視しやがって!」「しかもオレよりデカイ!」
「助けて!」
少女は必死の声をあげる。
「嫌がってんじゃねーかよ!」
オレは緑オトコの頭をボカッと殴る…効いていないようだ。
しかたない。と革靴を脱ぎ、靴で頭を再びぶん殴る。ボカスカ殴る。
《ウガッ!!》
うっとおしそうに、緑オトコは振り替える。その瞬間、オレは手を滑らせ革靴が手から離れて…緑オトコの鼻にスッポリハマる。
あっ…
緑オトコの顔がみるみるうちに白くなり、バターーンと大きい音をして倒れた。
そりゃ毎日、履きつづけていたとはいえ、そのリアクション失礼すぎるやろ!たしかに臭うけども!
あ、そうだ。
「大丈夫ですか?」
オレは襲われていた少女に声をかける。
気絶してるようだけど、たいしたケガもなくて無事なようだ。
「大丈夫ですか?」
オレは体を揺さぶってみる。
「大丈夫ですか?…あ」
彼女ははっと目を開けて、
「キャー!いやっ!」
いやいや、オレは何もしてない。体を揺すったとはいえ、肩だよ、肩、胸とか下半身とか、触ってないし!!
彼女は体を起こそうとする。しかし、
「イタッ!」
足を捻ったか、挫いたかしたみたいで、動けない。
「大丈夫ですか?オレは人間ですよ。そして、何もしてない。ただのサラリーマン。ね、緑色のやつは、ほら、」
「あ…すみません…」
オレは彼女の足をとりあえず木の枝で固定して、ネクタイで括ってみる。これくらいしかできないけど。高校のとき陸上やってたし、テーピングの要領でしてみた。
「あの…ゴブリンを倒してくださったのですね、ありがとうございます。あなたは…えっとその…変な……じゃない、変わった格好をされてますね」
今、変なって言ったよね!
変なオジサンじゃないよ!
あなたこそ、ドイツのビアホールにいるような格好じゃないですか。
よく見ると髪は赤毛で、顔は日本人の人種のそれではなく、欧米の人のような。
「え、ああ、サラリーマンですけど。そっちは日本人…?」
「さらりーまん? にほん…じん?」
あれ、そうか、あのクソオヤジ曰く、ここは異世界設定だったっけ。
どうしよう。あとで、『ドッキリ大成功!ぷぷ、本気で異世界って信じたの?』とか言ってプラカードもって現れたら。
そう考えていると、ふと横でゴブリンの姿が消えていく。まさにシュワシュワ~と消えていくという表現がピッタリくる。
「え?あっ消えていく!」
そして、消えた場所にはブロンズ色の玉みたいなのが3つコロンと現れる。
「これなに?」
「ゴブリンを倒した報酬はあなたのものです。どうぞ、お取りください」
え?倒した?報酬?
「え?てか、ゴブリン?は死んだんすか?この玉みたいなのなんですか?」
「ご存じないのですか!?」
…え!?こんな常識しらないの!的な顔で驚かれる。
しまった!営業にとって『知らない』『わからない』は禁句だよ…。
「いや、その、この地域、実は初めてでして、オレ、いやワタクシ、旅の営業…じゃなかった、行商のものでして、この地域のコレは初めて出会うのです」
「そうなのですね…。コレはゴブリンという魔物なんです。私たちの村の付近に生息するのですが、まさかこんなところまで出てくるとは、結界の力が弱まっているのかもしれませんね…」
「結界?」
「え?」
また怪訝な顔をされた。ほんとにこいつ何も知らねーの?的な目線。いかんいかん!
「あ、ああ結界…ね!はいはい」
とりあえず知ったふりをする。
「あ、そうそう足大丈夫ですか?なんなら村まで送りますよ。また出てきたら厄介ですし…」
わからない話は無理矢理に話をそらす。営業マンの鉄則だ。
「ありがとうございます!いてて…すみません。お言葉に甘えます」
歩けなさそうな彼女をオレは背負って、村へと歩く。
大丈夫…重くない…。
よいしょ。
「重くないですか…」
…こんな時に重いですなんて、言えるわけない。それぐらい彼女いない歴15年のオレにもわかるし。
そしてこんな美少女を背負えるなんてめったにないことだ…なんてこと、顔にも出さない。絶対だ。
「大丈夫ですよ~!全然…ヘーキですよ!」
『近くの村まで』ってどこだよ。
見えてこねーぞ!
重い。