俺の面倒な彼女。
「なんであんな人と付き合ってるんですか?」
なんでって、どうして?
「だって、顔が特別かわいいわけでもないし、才能があるわけでもない。仕事だって普通でしょう」
まあ、確かに。
「それに、同じ会社なのに、帰りだって違いますし、一緒に出かけたって話もほとんど聞かないですし。他のひととはたくさん話すのに、先輩と顔を合わせたって挨拶ぐらいしかしないじゃないですかっ」
そう?
「そうですよ! わたしのほうがあんな人よりずっとあなたが好きなのに。どうしてわたしじゃだめなんですか!?」
きみはいい子だけど、それはあくまで部下としてなんだ。だから、気持ちはうれしいけど、本当にごめんね。
そう言って、年下の後輩の告白を断ったのが昨日。
今日は、俗に言う花の金曜日だ。友人と連れ立ってこじんまりとした居酒屋に陣どったところ、どうやらもう噂になっていたらしく、根掘り葉掘り訊かれた。
相談した先から流れたのか、それとも自分から広めたのか、そこまではわからないが、入社したころからかわいらしいと評判の子だったので、広まるのが早い。
訊かれるがままに全て答えると、このリア充め、と罵られた。と言っても、友人だってついこないだ告白されたんだ、と自慢していたような気がする。つまるところ、俺との違いなんて彼女がいるかいないかだけだ。
「それにしても、陸もだいぶ慣れてきたな」
「は? 何が?」
「断りかただよ、断りかた。きみにはもっとふさわしいひとがいるよ、なんて台詞、前は言えなかっただろ」
「ああ、言えなかったっていうか、言う必要を感じるときしか言わないだけだよ。面倒くさいじゃん。あの子は広報だったし、けっこうかわいがられているみたいだから、フォローしといたほうがいいかなって」
「……性格悪っ」
「そうだよ。きみだって最初から知ってるでしょ。何をいまさら」
呆れた顔をする友人ににこりと返し、酒を口に含んだ。酒精がぶわっとのどの奥に広がって消えていく。
ビールや日本酒といった醸造酒より、ウォッカやウイスキーといった蒸留酒のほうが好きだった。強いわりに二日酔いになりにくく、うまく酔える。
普段何重にも被っている猫を脱ぎ捨てたくて選ぶ酒だから、仲の良い友人としか飲まない。
「ま、仮に彼女がいなかったとしても、あいつじゃお前についていけないだろうけどな」
「んー?」
「だって、あいつ、お前の顔しか見てなかったし。性格なんて二の次って感じで、隠してるつもりだろうけど、けっこうあからさまだぞ。お前の擬態が完璧だからかもだけど」
「お誉めの言葉、ありがと」
「誉めてねえし」
笑いながらべしっと頭を叩かれ、手に持ったグラスから酒がこぼれた。ぽたぽたと雫を落とす手のひらを眺め、もったいない、とため息をつく。ぺろりと舐めとると、わずかに顔をしかめられた。
行儀が悪いとか、そういう意味ではない。
俺は自分の顔が相当に良いことを自覚している。端正な顔立ちの俺がこういう仕草をすると、どうもかなり色気が漂うらしい。勘違いされても困るし、普段は品行方正で通しきっているのでしないが。
「そういうのは彼女の前でやれよ。っていうか、お前、今日、彼女は?」
「向こうも飲み会」
「あー、今日経理部に飲み会なんかあったか?」
違う違う、と首を振った。
「同僚とだってさ」
「いや、先週だってそう言ってただろ。大丈夫か、それ。男もいるかもしれないぞ」
「いるよ。でも、別に大丈夫だよ、朱乃なら。それに」
「それに?」
「酔ってる朱乃って、すごく楽しいんだよね」
「ああもういいからさっさと飲め」
ばん、と叩きつけられたグラスをありがたく受け取り、俺はくすりと笑った。
俺には眞中朱乃という彼女がいる。
先日、広報部の後輩にこき下ろされたように、容姿はいたって平凡だ。胸はあるほうだけど、背が高いわけでもなければ、特別すらっとしているわけでもない。細く見えるのは、少食で運動しないせいだ。
経理部に所属する彼女は、彼女なりに努力しているらしいが、要領が悪いから残業が多い。ただ、取り組み方はいつだって真剣で、真面目な子だと思われている。
対する俺は、激戦区の企画営業部所属。品行方正でとおり、上司の覚えもめでたいし、知りあいも多い。丁寧だけれど、無駄のないやりかた、をモットーに仕事をしている。
女子社員に羨まれるほど整った容ぼうに加え、身長は百八十八センチ。運動も得意なほうだ。
そんな俺たちがなぜ付き合っているのか、と疑問に思う人間は多い。というより、しょっちゅう訊かれる。本当に好きなのか、とか、どこが好きなの、とか。
まあ、それは、友人の言うとおり、巨大な巨大な猫を、ひとに悟られることなく、完璧に被っているからなのだけれど。
ともかく、彼女はそういう勘ぐりをかわすのが恐ろしく下手で、困ったように笑ってすみません、すみません、と繰り返すらしいが、俺はいつもこう答える。ーーーー性格、と。
そのとき、がちゃん、と玄関扉を押し開ける音がした。
朱乃だ。
ちらりと視線を動かし、カーテンがきちんと閉じられていることを確認する。
そうして、テレビを見るふりをしながら、彼女がやって来るのを待った。
ぱたぱたと近づいてくるスリッパの音。廊下とリビングダイニングをつなぐドアを越え、そこで一旦止まったあと、朱乃の声がぽつりと降ってくる。
「……なんで、いるんですか」
それに答えず、振り向きもせず、おかえり、と言うと、小さなただいまが返ってきた。
芸能人がきゃらきゃら笑うテレビ画面の向こうに、うっすらと映る彼女の顔は、赤みを帯びているわけでもなく、すとんと抜け落ちたように無表情だった。
残念だ。今日はあまり飲んでこなかったらしい。
ぽん、と鞄を端に放り投げ、再び廊下の奥に消えていく。流れる水音。しばらくたって戻ってくると、チョコレート色の髪はしっとりと濡れていた。服装も、ゆったりしたワンピースにショートパンツという、ラフな部屋着に変わっている。
朱乃は匂いに敏感だ。きついものは香水だろうと、柔軟剤だろうと、苦手としている。その最たるものはタバコで、特に飲み会のあとはどんなに酔っていようとシャワーを浴びたがる。
カーペットの近くに立ったまま、もう一度、なんでいるんですか、と訊かれた。
「……布瀬さんと飲みに行くって言ってたのに」
ちらりと時計を見る。まだ十一時だった。
先まで酒を交わしていた友人、布瀬は恐ろしいほどのざるだ。いくら飲んでも酔いつぶれたところなど見たことがない。布瀬と飲みに行くなら、日をまたぎ、深夜三時ごろ、もしくは早朝に解散するぐらいのが常だった。彼女の予想と違ったので困惑しているらしい。
「そんなところに立ってないで、こっちおいでよ」
ぽんぽん、と隣を叩くと、朱乃は座ってくれたけれど、ほんの少し躊躇って、やや離れたところに腰を下ろした。
ちょうどソファが背もたれになるそこは、彼女の定位置だった。もうあるとわかっているくせに定期的に買ってくるクッションがいくつも転がっている。
すぐ横に鎮座していた、身の丈の半分ほどもあるぬいぐるみを抱きしめる彼女を見て、俺はくすりと笑った。
予想どおり、というかわかりやすいなぁ。
付き合って一年にもなるのに、朱乃はいまだに俺の横に座らない。というより、座れない。
わかっていて、ソファの前を空けておいたし、ぬいぐるみだって手の届くところに置いておいたのだ。そこはソファのせいで後ずさることもできないし、廊下側に座ってしまえば避けるところがなくなる。
これ幸いとばかりに隣に寄ると、朱乃がすん、と鼻を鳴らした。近いけれど、ふれはしない。手を伸ばせば届くぐらいの距離感がポイントだ。
「……お酒の、におい」
「うん。もう飲んできたんだ」
「……え、でも、布瀬さん、すっごいお酒飲むんでしょう? この前だって、早朝帰りだったって……」
「そうなんだけど、あいつが明日用事があるらしくて」
嘘だ。用事云々は本当だが、それぐらいで飲み止めるようなやつじゃない。今日だって、日が変わるまで飲むつもりだったのだろう。完全に飲み足りなそうだった。それを切り上げさせたのは俺だ。
俺が、酔っている朱乃に会いたかったから。
ふーん、と返す彼女は、相変わらず薄い表情ーーそれこそ、外で見せる表情とは正反対の表情をしていた。
朱乃がどんな子かと訊けば、大抵が明るい真面目な子だと言う。くるくると表情の変わる、楽しそうな子だと。
けれど、俺は知っている。
朱乃がーーーー本当はてんで気まぐれで、ひとに無関心で、そのくせ臆病で、人間不信で、自分に自信の持てない、矛盾だらけの子なのだということを。
俺からすれば、誰だって、他人と関わるときは仮面を作っている。そうでなくては狭く広い社会は生きにくい。ただその大きさやうまさが違うだけ。嘘や演技は当然ある。
なのに、朱乃はその仮面を素で作ろうとする。楽しいと笑うこと、悲しんでいるひとを慰めること、共感できることばかりではないくせに、そうするべきだというふうに感情を揺らそうとする。けれど、そうしてみたところで、本当は心の底ではそんなことを思っていないとわかってしまうから、そこに嘘を感じて苦しんでいる。
巨大な巨大な猫だって、自分自身だと割りきっている俺と違って、彼女はその矛盾を消化できない。そうして重ねた嘘ばかりを見るから自分が嫌いだし、仮面をつけた自分ばかりを見て判断する他人を信じられない。
本当の自分じゃないと言う彼女に、一度だけ、だったらその姿を見せてみればいいんじゃないの、と言ったことがある。けれど、多分できないだろうな、と思いながら。案の定、すごい勢いで首を振られた。というか、ますますひどく泣かれた。
人見知りで臆病な朱乃は友人が少ない。見せて見ればといったって、今後のことを考えれば会社関係は無理だし、数少ない友人をいまさら失うリスクも冒せない。
社会という海のなかで、いつだって遭難しそうになりながら、なんとか泳いでいる人間。それが朱乃だった。
馬鹿だなぁと思いながらも、そんな朱乃の性格がかわいくて付き合っているのだと言ったら、広報部のあの子はなんて言うだろう。布瀬に言ったら、相変わらず性格悪い、と引かれた。
けれど、これだけのことを知るのがどれだけ大変だったか、布瀬は知らない。知っているから、朱乃が付き合ってくれたのだということも。
「朱乃は? 朱乃だって、あんまり飲んでないみたいだけど?」
「……先輩方とはちあわせちゃって」
納得。
誰、とは訊かなかった。朱乃はひとの顔と名前を一致させるのが苦手だ。訊いてもわからないだろう。
お疲れさま、と労いつつ、俺はその誰かもわからない人間を内心で罵った。
家では一切飲まない、飲み会は誘われたときしか行かない、知り合いの多い飲み会でないとすぐ気後れする朱乃が、思いきりよく飲んできてくれる機会だったのに。
そういうときの朱乃は、揺さぶれば揺さぶるほど揺れるから本当に楽しいのに。
また次回かな、と思いながら、目の前で抱えこまれた白い脚に手を伸ばす。するりとふくらはぎを撫でると、朱乃がびくりと身体を跳ねさせた。下がる余地はないから、横に身体をずらして逃げようとしている。
ひねくれているのに変なところで素直だから、あの手この手で陥落させたくなるのだと、どうして気づかないのだろう。
くすりと笑って、そのまま手のひらを差し出す。
「起こして」
自分で起きれるでしょう、と言いながらも、朱乃は膝で立って、手を引っ張ってくれる。
その手をぐっと引くと、抗う力もなければ想像もしていない彼女の身体は簡単に倒れた。大きく目を見開いた朱乃が可笑しい。
胸元に落ちてくる身体を柔らかく受けとめ、片手を頭に添えて、唇を奪う。
「……っや、……んん……待っ……」
俺からすれば、下にいようと、朱乃の抵抗なんてあってないようなものだ。下唇を食み、舌先で隙間をなぞり、ついばむようなキスを何度も落とす。
朱乃は嫌がるけれど、目は閉じない。彼女の感情は、こういうとき、すべて顔に表れる。普段、素でいるときは無表情でいることが多いのに、好きも嫌いも振れた感情すべてが露になる瞬間が好きだから。
朱乃の目のふちに、ぶわりと涙がたまった。これ以上は、本当に怒られる。
目じりの涙を軽く吸い取り、彼女ごと身体を起こした。
「っ……待って、って言った、のに……!」
「うん、ごめんね」
ぐずぐずと泣きそうになりながら俺を叩く朱乃の背中をあやすように撫でてやる。
「ぜったい、悪いと、思ってないくせに……っ」
「うん、思ってないよ」
「……っそういうの、きらい……」
「知ってる。でも、泣かせたのは悪いと思ってるよ? ちょっとだけ」
「泣いて、ない……!」
目も耳も、顔も真っ赤にした彼女は、どう見たって泣いたあとみたいなのに、強情だ。
「髪、乾かしておいで」
そう言って額にキスし、背中に回していた手を離すと、朱乃はぱっと立ち上がった。唇を引き結び、じっと俺を睨みつけるさまが、たまらなくいじらしく、かわいらしい。
くすくすと笑うと、わなわなと唇を震わせ、けれど何も言わずに身を翻した。
朱乃は感情が爆発すると頭が真っ白になるタイプだ。怒っているくせに、言いたいことと感情がぐちゃぐちゃになりすぎて、結局その場では何も言えない。考えすぎても、がんがん言われるときもそうらしいので、本当に損をしていると思う。
洗面所にいるうちに少し落ち着いたら、絶対に何か考えてくるはずだ。何を言うつもりなんだろう。ときどきとんちんかんなことを言い出すので、いつも楽しみにしている。
ドライヤーの音が響いている間に、リビングの電気を消し、戸締まりの確認をする。
寝室で本を読みながら待っていると、そろりとドアが開いた。ぴょこっと頭だけ出す朱乃の表情は、暗いナイトランプに照らされて、少し不安そうに見えるーーーー違う、本当に不安なのだ。
怒っていたのは彼女のはずなのに、これじゃあまるで俺が怒っているみたいだ。
ああ、やり過ぎたな。嘆息し、ベッドから降りる。
廊下で立ちすくむ朱乃のそばに行き、髪の間にするりと手を差しこむ。頭を撫でるようにくしけずると、朱乃の表情から硬さが抜けた。
あくまで俺が怒られていた、ということを思い出させるように、まだ怒っているかと訊くと、小さく首を振る。
「朱乃」
「……なんですか」
「抱きたい」
ストレートに口にすれば、朱乃の顔がぼんと真っ赤に染まった。
「……な、……な……っ」
はくはくと口を動かし、けれど言葉が出てこないらしい。もう何度もしている行為なのに、朱乃は一向に慣れない。なのに、反応は素直で敏感だからたまらない。身をかがめ、耳たぶを口に含み、うなじに吸いつき、ちろりと舐めあげれば、そのたび身体を震わせてくれる。
もう大丈夫かな、と顔をのぞくと、なんと怒りが再燃してきたらしい。あ、そこまで浮上しちゃったんだ、と思う反面、ほっともする。
明日、と朱乃が呟いた。
「明日がどうかした?」
「……おいしいランチが食べたい、です」
「うん、わかった。お店考えとくよ」
自他共に認めるインドア派の朱乃が珍しい。一週間のうち、丸一日は一日中ゆっくりしていないと心が折れるとしょっちゅう言っているのに。とはいえ、出かけられるのはうれしい。
快諾する俺の手を握った彼女はしかし、さらに驚くような言葉を続けた。
「だから、今日は、や、です」
思いもよらないことを言われた俺は、ぱちぱちと目を瞬かせた。ようやく言えた、とばかりに嬉しそうに笑う朱乃に、次第に可笑しさがこみ上げてくる。
「と、遠野、さん……?」
困惑する朱乃。
だって、そうだ。そんなことで俺を止められると思っているなんて。妙なところで子どもっぽい朱乃の頭をわしゃわしゃとかき回す。
「わ、わ、か、髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃいます……っ」
「これからもっと乱れるんだから、大丈夫だよ」
「え、……あのーーーー」
身体をよじる朱乃に構わず、焼けつくような荒々しいキスをする。今度こそ遠慮せず、唇だけでなく口腔内までむさぼり尽くす。怯む朱乃の舌をすかさず捉え、絡ませ、けれど怖がらせないよう、やさしく刺激する。
さんざんに食らった唇の端から、とろりとこぼれ落ちただ液はピーチミントの甘い味がした。腰が砕け、くたりと崩れた朱乃の身体を軽やかに抱えあげ、ベッドに運ぶ。
「……とお、の……さん……」
息を切らし、目を潤ませ、俺の名を呼ぶ朱乃があまりにも扇情的で、彼女にそんなつもりがないことはわかっていても、どうしようもなく煽られる。
「違うよ、朱乃」
「……え……?」
「こういうときは、なんて呼ぶか、ちゃんと教えたでしょ」
目の奥に隠すつもりもない情欲の炎を灯しながら、にこやかに笑うと、朱乃は怯えたように身体を丸めた。けれど、追いつめたいわけじゃない。彼女の前では、繕わないようにしているだけ。
「朱乃。俺のこと、怖い?」
こくん、とうなずく朱乃。ごめんね、と笑うと、けれど、朱乃はふるふると首を振った。
「……とおの、さんは、悪くない、です。だって隠さないでって言ったの、わたし、だから……」
謝らないでください、と囁かれた俺は、思わず天を仰いだ。抜群の煽り文句だ。
遠野さん、は減点だが、そんなのはいつものことだ。そもそも朱乃は他人と極端に親しくなるのを恐れているから、名前を呼んでほしいと言ったところで、滅多に呼んではくれない。
気にしているのは俺ばかりだと思っていたのに、ちゃんとわかってたんだ。
ややこしくて矛盾に満ちた朱乃の心を暴いたのは、俺だ。誰かにわかってほしいと思いながら、同時に誰にも見せたくなかっただろう、暗い内面。恐れおののき、泣き叫び、混乱する朱乃は本当に不安定で、いまにも溺れてしまいそうだった。だから好きになったのだけれど、手に入れたからには、もう、そんな状態にさせるつもりはない。
「それじゃあ、もっとと言ってるのといっしょだよ」
意味がわからない、というように首を傾げる朱乃の手をつかみ、手首に唇をつける。
ランチなら、十時に起こせば間に合う。ここまで煽られて、いまさらやめられる男がいたら、見てみたいものだ。
「朱乃のかわいいかわいいお願いは、ちゃあんと叶えてあげなきゃね?」
とろけるような笑みを浮かべた俺は、ようやく得心がいったのか、慌てて離れようとする朱乃を捕まえ、存分に食らいつくした。