複合型福祉施設 二話
龍太がヒューマンライジングに来て、3年が過ぎようとしていた。
龍太の日々の生活は、勉強に習い事、お手伝い、大人なら出来そうにない程、毎日が忙しい。辛いときもあるが、楽しいことのほうが多い、母の恋しさは記憶の奥底になっていた龍太だった。習い事は半年ごとに変わってゆく、上手な人や好きな人だけがそのまま続け、へたな人や嫌いな人は、次から次と習い事が変わっていく。
明は絵が上手かったので、同じ絵の先生から教わり続け、工作の習い事もしている。
ここでは、一つ得意なものを必ず見つけなければいけない事になっている。でもみんな、何が自分に合っているのか、分からないから何でもやってみる。
そんなある日、ヴァイオリニストの鈴木先生がやってきた、今日の習い事は、ヴァイオリンだった。鈴木先生が、ヴァイオリンを弾き始めると、部屋中にヴァイオリンの音色が響きわたる、ピアノと違って色んな音階があり、音の艶や悲しい音色に表情があった。
その美しさに、魅了されてしまった龍太。あんなに小さな楽器から、こんなに美しくて大きい音がどうして出るのだろう、と不思議に思う。
鈴木先生からヴァイオリンを手渡され、さぁ構えてと言われたが、ヴァイオリンを上手く持てない龍太。
その日は、ヴァイオリンを顎と肩で挟む練習と、ヴァイオリンのDVD教材を渡され、DVDをよく見てヴァイオリン構え方と、部位の名前を覚えておくようにと言われ、今日の習い事は終わった。
ありがとう御座いましたと挨拶して、みんな帰った。が龍太は残ってヴァイオリンの音色が気になり、鈴木先生に聞いてみた。
「鈴木先生はヴァイオリンの音が好きなの? 音の艶や悲しい音に表情があって人の感情や言葉のように感じた」
そう好きなんだね、と鈴木先生。ヴァイオリンはね、すべての板と弓とが共鳴し合って大きな音色を出すんだよ。
龍太は良くわからなかったが、そうなんだと思うことにした。
その夜、DVDをセットしてイヤホンで見入っていた龍太に、龍太、もう寝なさいと、怒り気味の菊ばぁちゃん。時計を見ると10時を過ぎていた、龍太は、急いで布団の中にもぐった。
それから毎日、セヴシックなどで音階練習の日々が続いた、時間があればカイザーやクロイツェルなどを練習した。
龍太が、弾くヴァイオリンの音色は、何処となく淋しさと悲しい表情を出していた。菊ばぁちゃんは、この子は本当に好きなんだねぇ~ヴァイオリンが、と龍太を見る。
ヒューマンライジングでは、習い事の決め時の期限を半年としている。残っている生徒は、龍太と美玖ちゃんと美玖ちゃんの妹の真美の3人だけになっていた。いつも美玖ちゃんのスカートの裾を摘まんで、後ろにいる真美は、もう3歳になっている。真美は美玖ちゃんの傍から離れない、美玖ちゃんを母のように慕ってミィちゃん、ミィちゃんとひと時も離れない。美土里おばちゃんは漬物製造で忙しく、代わりに美玖ちゃんが真美の面倒を見ている、美玖ちゃんは、本当の妹のように真美を可愛がっている。ときに母であり、姉である美玖ちゃんは、勉強する時間もないはずなのに勉強も出来き、ヴァイオリンも龍太より上手かった。龍太は、美玖ちゃんに淡い恋心を抱いていた。
半年が過ぎ、ヴァイオリンの習い事終了の時がきた。
最後の練習日、鈴木先生が話し始めた。「今日が最後になりますが、このまま続けていきますか?」
美玖ちゃんは悩んでいる。
美玖ちゃんと、このまま一緒にヴァイオリンをやりたかった龍太。美玖ちゃんに続けようよ、やろうよ、と言い、そんな気はなかったが、つい口から、真美の面倒を僕がみるから、ね。だから、やろうよ、と言う龍太。
美玖ちゃんは、本当は辞めるつもりだったようだ。でも龍太が、しつこく頼みお願いするので仕方なく、うん、と言ってくれた。後ろから真美もやる、と大きな声がした、僕もやります、続けますと返事をした龍太。
鈴木先生はそうですかと、ニッコリと笑い、私もうれしいです。と言った。
それから、龍太たちは週2回の厳しいがレッスンが、また続くことになった。龍太たちの習い事は、まだ他にもいろいろあった、週4回が習い事の日になっていて、常に2つの習い事をすることになっている。龍太は合気道が好きだった、習い始めて2年が過ぎ、初段の有段者になっていた。そしてヴァイオリンと合気道の日々が続いた、ヴァイオリンは年数を追うごとに難しくなっていくが、龍太は、パガニーニ24カプリースを、宿題とされるほどの腕前になっていた。
ヒューマンライジングは、何か良い事があると、宴のお祭りがおこなわれる。
また村の人々も大勢集まり、互いの喜怒哀楽を共にできる場所となっていた。お祭りは、誰かが入居した時や、ここから巣立ち旅立つ時などの特別な日におこなわれる。ヒューマンライジングには、元料理人もいて本格的な料理が並ぶ、もちろん龍太が、大好きな肉じゃがも、菊ばぁちゃんが作っている。今日は何があったの?と、隣にいた明に聞いてみた、じいちゃんが来るらしいよ、と明は答えた。
じいちゃんか、と龍太はつぶやいた。
そのじいちゃんがやって来て、皆さん、こんにちは、今日からお世話になる大田一郎です、宜しくお願いします。と、挨拶が終わると同時に、飲めや歌えのお祭りが始まった。
いつものように菊ばぁちゃんが、一曲やっておくれと言う。龍太は、少し弾けるようになってきたパガニーニ24カプリースを披露したが、音階を数十回以上は外してしまっていた。美玖ちゃん、気がついたかなと、渋い顔の龍太。周りの人たちは皆、神妙な顔で聞いている、弾き終わると大喝采が鳴り響いた。それから真美と美玖ちゃんの出番がやってきて、ポル・ウナ・カベーサをアンサンブル、で演奏した。美玖ちゃんの音色は、聡明で真っ直ぐな音を作り出し、真美は、元気で明るい健康的な音色でだった、二人の息はピタリと合っていた。さすが姉妹だな、と龍太は思った。
誰かがダンスを始める。
そしてひとりまた一人と立ち上がり、踊りだす老若男女が手を取って踊りあう。曲が終わっても、アンコールの合唱で姉妹は、ポル・ウナ・カベーサを弾き、そして弾き終わると、大、大、大喝采が鳴り響いた。美玖ちゃんと真美は、少し顔を赤らめ、お辞儀をして舞台を降りた。妹の真美はもう8歳になっていたが、相変わらず美玖ちゃんから離れない。
美土里おばちゃんがやってきて、一郎さんと声をかける。
ようこそヒューマンライジングへと言って、ビールを注いだ。一郎じいちゃんは、ありがとう御座います、と言い、ゴクゴクと一気に飲み干し、うめぇ~、生き返った、と大きな声を出した。わたし、ファンなんですと唐突に、一郎じいちゃんに向かって、話し出す美土里おばちゃん。昔からあなたのファンなんですぅよと、もう一度言った。
一郎じいちゃんは、ありがとう、と一言。
美土里おばちゃんは笑顔で、今から一郎さんも、ここの家族ですからね、と言う。
一郎じいちゃんは、ありがとう。これから宜しくお願いします、と頭をペコリとした。
みんなが一郎じいちゃんの前に来て、よろしくと言いながら握手をしている。
隣にいる龍太は、不思議そうに一郎じいちゃんの顔を見ると、目が真っ赤になっていた。
一郎じいちゃんは、若い頃、ボクシングの日本チャンピオンで間違いなく、世界チャンピオンになると言われていた人だった。ボクシングスタイルはモハメド・アリのように、軽やかなスッテプで相手を惑わし、右フックでエラを打ち抜き、左ストレートで顎を撃ちぬく、ワンパンチのサウスポ-のボクサーだった。人間の脳は強い衝撃を受けると、衝撃を和らげるために一瞬ゼリー状の液体状態になる、液体状態の脳に、さらに衝撃をあたえると脳が破壊され、何らかの障害もしくは死に至ることを知っていた一郎じいちゃんは、一撃で仕留める試合をした。それは、能の舞のように美しいと言われた、ボクサーだった。だから、ヒューマンライジングの人たちや村の人たちは、一郎じいちゃんを、知っていた。そして、一郎じいちゃんの悲しい過去のことも、皆知っている。
世界タイトル戦の前夜、後援会の挨拶のため町内のお祭りで挨拶をしていた一郎じいちゃん。そのとき、女の人の悲鳴が聞こえた、一郎じいちゃんは、悲鳴が聞こえた方向へ、一目散に走っていた。4人の男が、若い女性を無理やり連れて行こうとしている、女の人はやめてください、助けてと、叫んでいた。助けに入った露天のおじさんは、殴られ気絶していた、が、他の人たちは、見ているだけだった。その時、一郎じいちゃんはやめろと言って、女性の腕をつかんで男たちから離そうとした。しかし後ろから一人の男が、木棒を手に取り一郎じいちゃんの頭を思いっきり叩いた。よろめく一郎じいちゃんは気が遠くなっていく、が、次の瞬間、無意識状態で4人の男たちを倒していた。
3人は軽症だった、が、ひとりの男は運悪く、灯篭の石台に頭をぶつけ死んでしまった。
一郎じいちゃんは、人を殺めてしまった。
警察の調べでは、相手は地元の暴力団員で美人だったので一緒に酒を飲もうと誘い、無理やり連れて行こうとしていたところへ、一郎じいちゃんが、現れたと言っていた。世間の人々は、情状酌量の無罪を求めたが裁判所は、一郎じいちゃんの過剰な防衛だったとして、執行猶予の判決が下った。
ボクシング協会は、犯罪者となった一郎じいちゃんを、永久追放に処した。
世間では、悲劇のボクサーと言われていた一郎じいちゃんは、その後、目立たぬようにひっそりと生きてきた。そして、縁あってヒューマンライジングにやって来た。
いま龍太と明の目の前にいる。
これから宜しくな坊主たち、と龍太と明に言った。
『ヒューマンライジングの老人入居の条件は厳しく制約されていた。
健康状態が良いこと、子供たちの見本になり得る人であること。
特技があること、人格者であること、ポジティブな人。
そして最後にピンシャンコロリであること。
入居は無料。そして仮入居期間が4週間を過ぎて問題がなければ本入居となり、僕たちのヒューマンライジング・ファミリーになる。
いくつかの条件を満たさなければ入居できない』
一郎じいちゃんは健康状態、子供たちの見本、特技、人格者などが認められ仮入居となった。そして一郎じいちゃんのボクシングクラブが、ヒューマンライジングにできた。ボクシングクラブには、菊ばぁちゃんたちも参加して縄跳びやシャドーボクシングをやっている。ピンシャンコロリ、ピンシャンコロリ、ピンシャンコロリとシャドーボクシングをやっている。菊ばぁちゃんは、いつもピンシャンコロリだよ、と口癖のようにいっている。そのピンシャンコロリでシャドーボクシングのリズムをとっていた。
龍太は以前、菊ばぁちゃんにピンシャンコロリのことを聞いたことがある。菊ばぁちゃんがピンシャンコロリは、ねぇ、生きている間は、元気で人生を楽しむこと、そして死ぬときはコロリと死ぬことだよ。だからピンシャンコロリなんだよ。と笑っていたことを思い出していた龍太。
明は、一郎じいちゃんのボクシングクラブが、気に入ったようで毎日練習に行っている。そして一郎じいちゃんの部屋に寝泊りするようになり、菊ばぁちゃんの肩もみは、龍太が一人でやっている。
いつも一緒だった二人は、それぞれの人生を、歩み始めていた。
ある日、鈴木先生がヒューマンライジング運営者の人たちと話をしている、そして龍太にドイツに留学しないかと言ってきた。来年は大学に入る年になっていた龍太は、少し時間をくださいと鈴木先生に答えると、では一ヶ月後に返事をしてくださいと言って鈴木先生は帰っていった。鈴木先生の話では、龍太のヴァイオリンの音色には表情と表現力があり、その素質は、もう私が教えられるレベルではないのでドイツのケルン音楽大学で本格的にヴァイオリンの勉強をさせてやりたい、既にドイツの友人に手紙を出して許可を得たことなどをヒューマンライジング運営者の武本さんに話していた。
『ヒューマンライジングでは才能を有する者には、すべての環境を提供していた』
菊ばぁちゃんや明や美玖ちゃんと真美たちヒューマンライジング・ファミリーと離れ離れになることを恐れ、龍太は悩んでいた。だが武本さんは、龍太にドイツに行って勉強してきなさい、と言ってきた。
幾日が過ぎ、明とお風呂に入っていた龍太。お前には、ヴァイオリンの才能があるんだドイツへ行って勉強して来い、と突然、強い口調で言ってきた明。無言の龍太。風呂から上がり布団の中に入った龍太に、菊ばぁちゃんが、あんなに好きなヴァイオリンの勉強が出来るんだから行きなさいと言われた龍太は、布団の中から誰がばぁちゃんの肩を揉むんだよぅ、と子供のように泣きじゃくった。
わたしは大丈夫だよ、明に揉んでもらうから大丈夫だよと、繰り返しながら寝入っていく、菊ばぁちゃん。
翌朝、美玖ちゃんがおはよう一緒に食べよう、と声をかけてきた、うん、と答える龍太。
3人でテーブル座り、お椀を手にもった龍太に美玖ちゃんが話す。「ドイツへ行くんだって?」いや、まだ分かんないよ、と龍太。
龍ちゃんは才能があるから、もっともっと磨いて世界的なヴァイオリニストなって、世界中の人に龍ちゃんのヴァイオリンを聞かせてあげて、と真顔の美玖。
行けばぁ~と真美の声がした。
私たちのヒューマンライジング・ファミリーのことを世界の人たちに伝えて、親がいなくても幸せに生きていけることを、こんな家族がいることを伝えてほしいの、と龍太の瞳をみつめた美玖。
龍太は、そのとき自分の使命を悟った。
うん、わかった、僕行くよドイツへ。と龍太が答えると、美玖ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
また、行けばぁ~と、真美の声がした。
ようやく決心した龍太は、鈴木先生に電話をしてドイツに行きます、僕をドイツに連れて行ってくださいと、お願いした。あまり感情を出さない、物静かな鈴木先生が、そうかそうかと嬉しそうに答えた。
そして、ヒューマンライジング・ファミリーの皆が喜び、龍太を祝福した。
ドイツ留学の前日、いつものようにお祭りが始まった。
今日の主役は龍太だった。みんなの前で挨拶をした、が涙で上手く話せない、龍太のこころは、すでに懇情の別れとなっていた。お祝いの日に泣く奴があるかっ、と一郎じいちゃんが叱責した、そうだ、そうだと明の声もする。もう挨拶はいいから、はやくお食べ、といって壇上にいる龍太の手をとり菊ばぁちゃんが、代わりに挨拶をした。
「この子は素直で心優しい子だから、あんなに綺麗なヴァイオリンの音色が出せるんですよ。必ず世界で活躍するヴァイオリニストになります」
皆は頷きながら、拍手した。
ひとり一人と手を握って、頑張れ、負けるな、と皆から別れの挨拶をされる龍太。美玖ちゃんが、絶対に世界一のヴァイオリニストになってね、と手を握ってきた。なるんだぞぅ~と横から真美も言う。
わかった、がんばってみるよ、美玖ちゃんの分まで。世界一のヴァイオリニストなるよ。と言い切った自分に龍太は驚く。
菊ばぁちゃんは、美玖ちゃんに龍太がドイツへ留学に行くように諭してくれ、と事前に頼んでいた。そして自分が居なくなっても、あの肉じゃがを龍太が食べられるようにと美玖ちゃんに伝承していた。
菊ばぁちゃんのことは、俺に任せておけ、と明が肩をポンと叩く、お前は世界一のヴァイオリニストなれ、俺は世界一の建築家になってやる。これからは競争だ、どっちが早く世界で有名になるか、と言い放った。
明は、龍太と出逢うまえから工作や絵画の習い事を続けていた。一郎じいちゃんの部屋には、明が作ったミニチュアのお城や、お寺などが所狭しと飾られている。絵画でも賞を取れるほどの腕前になっていた明は、いま建築家を目指し勉強をしていた。
旅立ちの朝、菊ばぁちゃんと二人での朝食、龍太は目に涙をためながら、静かにご飯を食べている。馬鹿だねぇ~、この子は。と言ってハンカチを手渡され、またすぐ逢えるんだから、年に何回かは戻ってこられるんだろ、帰ってきたら、お前の大好きな肉じゃがを、うんと食べさせてあげるから、もう泣かないの、笑顔で出て行きなさい、と菊ばぁちゃん。
龍太は、菊ばぁちゃんが作る肉じゃがが大好物だった。龍太の母親は、施設を去る前に龍太の好物を菊ばぁちゃんにお願いしていた。薄口醤油で甘めの味付けの肉じゃがは、母の味だった。
うん。ばぁちゃん、明に肩揉んでもらうんだよ、風邪をひかないようにね、ばぁちゃん。
はい、はい、大丈夫だよ。と菊ばぁちゃん。
鞄とヴァイオリンケースを手に取り、行って来ると部屋を出る龍太、行っておいでと、部屋に居残る、菊ばぁちゃん。ヒューマンライジング・ファミリーとの別れ、にぎやかな毎日を愛おしく思う、龍太。
見送りをする皆から、龍太ガンバレーと声をかけられ、手を挙げ答えた。後ろ髪を引かれる龍太を見て、鈴木先生が車のドアを開ける。ありがとう御座います、とお礼を言って車に乗り込むと、明の声がした。
「どっちが早く有名になるか、競争だ。世界一になるか、龍太 勝負だ、負けるな」
わかった、と龍太は答え、世界一のヴァイオリニストなると、言って明の手を握りしめた。そして車はゆっくりと動きだし、ヒューマンライジング・ファミリーのみんなの姿は、見えなくなっていった。
その後の龍太は、ケルン音楽大学でヴァイオリンを基礎から勉強しなおしていた。また世界ヴァイオリン早弾き大会に参加して優勝するなど超絶技巧のヴァイオリニスト成長していた。
龍太のヴァイオリンは、ケルン音大のフィッシャー教授から、これを持ちなさいと譲り受けた物だった。そのヴァイオリンの銘は、剥がれ読み取れなかったが、300年前後のオールドである事は確かだった。形状はストラディヴァリよりは、やや小ぶりでアマティに近かったが、その音色は美しい高音から伸びやかな低音まで、全体を通して艶やかなシルバートーンでストラドに引けをとることはなかった。
龍太の感性が、ヴァイオリンに命を吹き込み、感情豊かな甘い音色を響かせていた。
ケルン音楽大学を首席で卒業後、オーケストラ在籍5年経て、ソリストとして世界で活躍する新人ヴァイオリニストになっていた龍太は、時折、コンサート会場でヒューマンライジング・ファミリーの話をした。菊ばぁちゃん、明、美玖ちゃん、一郎じいちゃんや、ヒューマンライジング・ファミリー皆のことに思いをよせていた。
世界で活躍するソリスト龍太の話は、少しずつ世に知られ、ヒューマンライジングが人間主義ビジネスモデルとして、コミクWEBや一般社団法人ペンキや太郎が話題となり、企業人の考え方も循環型企業の公益資本社会を意識するようになっていた。




