表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界はあなたの瞳の色  作者: 凪野海里
エモルス国
2/2

2 宿

 夕食の時間になり、津鷹と春野は階下へ行った。食堂にはすでに宿泊者全員がそろっているようで、皆。静かに席に着いている。

「今日はカボチャのスープです」

 スープをテーブルに置いて、ミワカはにこりと微笑んだ。さらにテーブルには焼きあがったばかりのパン、サラダ、魚などが並べられていった。春野はその食事の前に、うずうずしていた。

「それではいただいてください」

 それを合図に、津鷹たちは手をつけはじめた。テーブルの脇にずっと立ち続けているミワカに津鷹は声をかけた。

「おいしいですね」

「ありがとうございます」

 さて、何から話したものかと思案しながらスープを飲む。春野はもうすでに食べ終えたらしく、帽子をかぶったまま静かにしている。

「春野は食べるのが早いね」

「おいしいから、スプーンが進んだ」

春野は眠そうにあくびをして、目をこすった。そんな動作をする彼女に、津鷹はそっと耳打ちをした。春野はこくりと頷く。

「じゃ、合図をしたら頼むよ」

「わかった」

時間は進む。スープを飲み続ける動作を止めずに津鷹はそっとミワカに目をやった。彼女は食堂であるこの場にずっと立ち続けている。

津鷹はパチンと指を鳴らした。

ゆっくりとした動作でミワカがこちらを見た。

春野は帽子を脱ぎ、全体に目を走らせた。みんなの動きがまるで写真のようにピタリと止まった。

「あら?」

動いているのは津鷹と春野、それからミワカだった。

「すいません、ミワカさん。ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」

津鷹は立ち上がってミワカの目の前に立った。彼女は困惑しながら、春野を見た。春野は目を開いたまま、微動だにしない。

「彼女の目はあまり見ないほうがいいですよ」

津鷹はミワカに忠告した。ミワカは慌てて津鷹を見つめた。

「あなたたちは、いったい…?」

「僕たちは協会から来た者です」

「協、会…」

その一言で何かに気づいたようだった。ミワカはひどく困惑していた。

「どうやら知っているようですね」

「ミワカ、そいつらを追い出しなさい」

突然の声に驚いて振り向くと、そこには長い髭を腹の辺りあたりまで垂らした老人がいた。

「でも…」

「協会から人が来た以上、どうすることもできん。だが、お前には幸せになる権利がある。それはお前を拾った時に婆さんが言っておったが、儂もそう思うぞ。というわけだから、協会の2人さんは帰りなさい。でなければ」

老人は壁にかかっていた槍をつかんだ。

「ここで貴様らを貫くぞ!」

春野が津鷹の服の袖をつかんだ。つかんでいる手は震えていた…。それもそうだろうかと津鷹は思い、小さくため息をつくとうなずいた。

「わかりましたよ。今日は退かせてもらいます。ですが、もし他の人がミワカさんを狙うようなことがあれば、全力で対処していただきますので、そのつもりで」

津鷹は春野の肩を叩いて立ち上がらせた。玄関の方へと向かおうとする2人に、ミワカは「待って」と慌てて声をかけた。

「大丈夫ですよ、ミワカさん。またいつか来ますから」

老人の「2度と来るでない」と言う言葉が聞こえたが、それを聞こえなかったふりをして、津鷹は春野と共に宿屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ