表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界はあなたの瞳の色  作者: 凪野海里
エモルス国
1/2

1 エモルス国

 恵海です。「嘘は内緒の始まり」は続いていますが、ちょっと余裕があるので違う作品を投稿します。

 今回は異国ファンタジー、「手をかざして」です。ちょっと題名をつけるのに毎度困っていますが、どうか飽きずに、連載小説ですので気軽に読んでください。

 毎週日曜日掲載予定ですので、よろしくお願いします。

 では、スタートです。

 馬車でたどり着いたそこは、普通の町だった。津鷹は馬車を降り、その後ろから降りてくる子を持ちあげて下ろしてあげた。

「ありがとうございます」

 お礼を言ってお金を渡し、馬車とさよならをした。

「さて、ここが今回の仕事場だよ」

 目深にかぶっていた帽子をあげて、その子は感嘆の声をもらした。毎度毎度、新しい町に来る度にそうやって声を上げるのが、その子のやり方みたいなものだった。

「まずは下宿先を探さなきゃなぁ。あー、こればかりは毎度面倒だよ」

 津鷹はその子の手をとり、キャリーバッグをコロコロ転がしながら歩き始めた。異国の人間が現れたのに、道行く人々はすれ違うたびにこちらをちらちら見ていた。

「注目されてるね」

「そうみたいだね。これもいつものことだよ。春野は嫌じゃないのかい?」

「注目されたことなんてないから、ちょっと怖いかも。でも」

 春野と呼ばれたその子は帽子の間から目をわずかにだし、にこりと微笑んだ。

「もしも津鷹がいなければ、僕はずっとあの部屋で独りぼっちだったよ。だから、今はそんなに怖くない。津鷹が隣にいれば、なんだってできるもの」

「そっか」

 津鷹は春野に笑みを返して、最初の宿を見つけてそこに足を踏み入れた。


 この町への配属が決まったのは、つい3日前だった。1週間ほど仕事に明け暮れてやっと終わったと思ったら、新たな仕事先への通知がポストに投函されていた。

「エモルス国。これって西の方にある独立国だったよね」

「けっこう小さい国ってことで有名だね」

 手紙を読みながら、津鷹は地図を広げた。

「ここはそんなに歴史のある国じゃないし、周囲には大国が多いし。よく今まで占領されなかったねぇ」

「ここに行くの?」

「そりゃ、仕事だからね。なんなら春野はお留守番しててもいいけど」

「行くよ、一緒に」

 春野は頬をふくらませて言った。今の発言がよほど不服だったのだろうか。部屋の中にいても決して帽子を取ろうとしない春野は、帽子から目をのぞかせた。

「じゃあ急いで出発しよう。ここでの仕事はもう終えたから、別に用はないしね」

「サナに挨拶はしなくていいの?」

「去るときは相手の気持ちを傷つけないように。これが僕の座右の銘。だから、言わずにここを去る」

「それは逆に気持ちを傷つけてると思うけど」

 春野は苦笑をして、旅へ行く準備を始めた。


 10軒目に行くころにはもう太陽は西へと傾いていた。向こうの方に見える山々に太陽は消えかけていく。

「これは弱ったなぁ」

「ねぇ、どうしてあのカードを見せないの? あれを見せれば一発で宿を借りられるのに」

 春野の言うあのカードというのは、世界じゅうで使える、特待カードみたいなものだ。これさえあれば、その国の王族にもお目通りがかなうという優れものだ。

「僕は可能だけど、春野はまだ持ってないだろ?」

「うっ……、でも僕なら外でも寝られるし」

「それは駄目だ。そんなことしたら、また――」

 そこで言葉を切った。ここから先を言ってはまずい。津鷹はため息をついて、春野の手を強く握った。そこへ。

「あの、宿でお困りですか?」

 後ろから声がかかった。思わず振り向く。

「よかったら、その……、私の宿へ来ませんか? ちょうど、1つ部屋が空いているので」

「いいんでしょうか」

「ええ、構いません」

 声をかけてきた子は、亜麻色の髪をした、唇の下にほくろのある少女だった。


 亜麻色の髪の少女は名前をミワカといい、紹介してくれた下宿屋の看板娘のような人だった。

「どうぞ、こちらです」

 招かれた部屋に入り、そこで落ち着いた。

「夕飯は下の食堂で、皆さんと一緒に食べるきまりなんです。それでもよろしいでしょうか」

 ミワカの言葉に、津鷹は春野の顔を見た。

「別に大丈夫」

「大丈夫です」

「はい。夕飯の時間は7時ですので」

 部屋のドアが閉まると、津鷹は春野に質問した。

「意外だったなぁ、まさか春野が食堂での食事を構わないなんて言うとは」

「大丈夫だもん。みんなと、顔を合わせさえしなければ」

「うん、まぁそうだね」

 そのせいで何度面倒事を引き受けてきたものか。だが、それは全て彼女が悪いというわけではないのだ。

「ところで津鷹、もしかして彼女が」

「あ、春野も気づいてた? 最近察しが良くなったね」

「直感だよ」

「うん。春野の言う通り、さっき、顔写真も確認した。『エモルス国、下宿屋の娘、ミワカ』

 彼女は間違いなく、僕らが捜していた人物だよ」

 空はいよいよ暗くなり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ