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反転世界


僕が物心ついて初めて目にしたものは、あかだった。


常識がなく、秩序もない世界にだって、人を愛する気持ちは存在する。

弱者の女と、まあまあ強者の男の間に生まれたのが、虚兎であった。


異性を好きになることはあっても、子どもを愛する者は、この"歪世界インペドゥス"ではかなり珍しかった。

その珍しい人物に入っていた彼の両親は、この残酷で正直な世界で、三人暮らしていこうと考えていた。


虚兎が三歳になり、物心がついた頃、彼の両親は殺された。

ただの快楽殺人だった。そんなものが日常茶飯事な世界。花のような笑顔を見せていた彼の目の前で、両親は鮮血をまき散らし息絶えていった。

もちろん、両親を殺したその男は、彼も殺そうとした。


しかし、虚兎は普通の子供ではなかった。

人間のような姿をしているが、その頭には兎のような長く黒い耳が生え、丸くふさふさとした兎のような尻尾も生えていた。

異質な存在。


気づいた時には、両親を殺した男も鮮血をまき散らし、息絶えていた。

呆然とする虚兎が見たのは、その鮮血に染まった自身の手。


その出来事により、虚兎は自身の本当の名を忘れてしまった――。





"歪世界インペドゥス"とは異なる世界"反転世界ケーンヴェルム"

この世界で二番目に有名な大きな学園"桜花白城キルヴァロス学園"では、現在一年生による使い魔召喚の授業が行われていた。


真新しい制服――濃紺のブレザーに、男子は灰色のズボン、女子は青い膝丈上のチェック柄スカート――に身を包んだ生徒たちは、砂埃が少し舞う校庭へと集合していた。

それぞれ仲の良い者と楽しげに話をしている。


そんな中、校庭の地面に幾何学模様の円を描いていた唯一の大人である教師、アレクシス=ブラントは、幾何学模様を描き終えたらしく、集合した生徒たちの前に立った。


「今から使い魔召喚における注意事項説明すっから、話やめろー」


入学したての一年生にとって、一番最初のビッグイベントとなっている使い魔召喚。生徒たちは皆浮き足立ち、そわそわした気持ちを押さえられないでいるようだ。

アレクシス教師の声を聞き、話声は止むものの、ウキウキとした雰囲気がその場を支配していた。


「楽しみなのはわかっけど、召喚は極めて危険な魔法だ。気を抜かずにやるんだぞ」


癖毛で跳ねまくいっている髪を掻きむしり、気だるげな態度のアレクシス教師は、少し真剣みを帯びた視線を生徒たちへと向ける。

その視線を受け、生徒たちの表情は少しだけ引き締まった。


「では、注意事項その一。召喚に魔力なんて一切必要ない。血を一滴魔法陣に垂らすだけだ。魔力なんて流したら繊細な魔法陣が暴走しちまうから気を付けろよ」


魔法陣、といって指さしたのは、先程地面に描いていた幾何学模様。

魔力とは、この世界の生きとし生ける生物の全てに宿っている不思議な力のことである。それは空気中にもあるのだが、それは"外魔力"といって、特定の生物でしか取り込むことのない力。

それに比べて生物に宿っている魔力は"内魔力"という。これは訓練すれば量が増えたりする。


人間はその内魔力を使い、魔法という特殊な力を放つことが出来る。もちろん、他の生物も稀に魔法を使いこなせるものもいる。


「注意事項その二。語り掛ける言葉は眷族名と自身の名だけでも平気だ。しかしそれ以外に召喚条件のある奴は、言ってもいいが変な言葉は絶対に使うな。死ぬとか殺すとか」


眷族名とは、召喚されるものの属性のことである。火属性ならば"熱の眷族"となり、水属性ならば"流れの眷族"。風属性ならば"空気の眷族"。雷属性ならば"電の眷族"。地属性ならば"土の眷族"。光属性ならば"太陽の眷族"。闇属性ならば"月の眷族"。血属性ならば"命の眷族"。音属性ならば"振動の眷族"となる。


召喚する者の属性は、自分の一番得意とする属性を選ぶが、稀に得意属性の反対を選ぶ者もいる。つまり、使い魔の属性を自分で選択することができるということだ。

しかし、光、闇、血、音の属性は、自身もその属性を持っていなければ、召喚はできないといわれている。


「じゃ、それぞれ適当にグループ作って、始めてくれ」


二つの注意事項を述べたアレクシス教師は、それだけ言うと校庭の隅に生えている大樹の木陰に座り込んだ。座り込んだだけで、寝ようとは考えておらず、その視線は楽しげにグループを作り始めた生徒たちに向けられている。


「……あ! おい、お前ら!」


不意に、何かを思い出したように生徒たちの群れに向かって声を上げるアレクシス教師。

既に魔法陣の上に足を踏み入れていた生徒もいたが、まだ召喚はしていないようで、不思議そうな視線をアレクシス教師の方へと向けた。


「最後にもう一つ、注意事項だ。絶対に、複数による召喚はすんなよ。かなり面倒なことになるからな!」


それだけ言ってアレクシス教師は口を閉じた。

全ての注意事項が生徒たちに伝わり、いよいよ使い魔召喚が始まろうとしていた。



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