徳川 光華(とくがわ みつか)
「明日から授業始まるからな。ちゃんと準備しておけよ。」
と拓也がいった。僕は授業に必要な教科書を鞄に詰めた。
(明日からは早めに起きて、ランニングしなくちゃな。)
そう思った僕は、早めに寝ることにした。
朝、僕は目を覚ました。いつもは日の出がでるころにランニングに出るのだが、今日はまだ朝日が出てなかった。
(さて、行くか。)
僕は双剣を背中に担ぎ、ランニングに向かった。いつものように呼吸でリズムを取りながら、走る。するといきなり剣で切りかかられる。
【石口流双剣術守の技光円斬】
相手の武器に遠心力によって放たれる重い一撃を二回打つ。自分も身を引き、相手も吹き飛ばす、距離を取るための技だ。
この技を受け、相手がギリギリで受け身をとった。太刀筋が甘い。そして受け身を取るのが、やっとのようだ。
「誰っ!?」
女の子の声がする。
「いきなり襲ってくるなんて酷いじゃないか。名乗るなら君からにしてくれないかな?」
相手は僕の反撃をくらい警戒心をあらわにする。いきなり襲ってきて、さらに警戒されるなんて……。
「くっ、徳川……光華……。」
「僕は石口蓮だ。で、何で僕を襲った?」
「私が剣の稽古をしているときに貴方がいきなりやってきたんじゃない!」
(言いがかりだ……)
「僕はランニングをしてたんだ!そしたらいきなり攻撃されたんだ!」
「……え?あ、あの申し訳ありませんでした!」
「まぁ、謝ってくれたんだし、もういいよ。」
僕は笑顔でいう。
「そ、そう。ありがとう。」
「剣の稽古してるって言ってたね。僕も武器は片手剣なんだ。」
「え?さっき剣が2つあったような?」
「え"?あ、あは。気のせいじゃないかな?」
つい剣を二本抜いてしまった……。なんのために片手剣を教えてもらったんだよ、僕は……。
「そうかな?まぁいっか。そうだ、良かったら、一緒に練習しない?石口君。」
「いいの?」
「勿論だよ。一人で練習するよりも楽しいと思うな。」
「それじゃあ一緒に練習しよっか。それと僕の事はレンでいいよ。
「そう?ならレン君。私も光華でいいよ?」
「うん、そう呼ばせてもらうよ、光華ちゃん。」
名前で呼ばれて嬉しいのかえへへと言って照れていた。うん、何というか可愛い。僕らはしばらく無言で素振りを続けた。僕はその沈黙を破った。
「光華ちゃん、さっきランニング中に僕に攻撃して、もし僕がその攻撃を食らったらどうするつもりだったの?」
「あ、そ、それは、うぅ、考えていませんでした。」
と、言って俯いてしまった。
「まぁ、無事だったから良いけどね。でもいきなり剣を振るうのは止めた方が良いんじゃないかな。」
「気をつけます。」
「まぁ、仕方ないかもね。って何だ?」
何か違和感を感じ取った僕は振り向く。
「どうかしたんですか?」
僕の目線の先にいたのは魔獣だった。それも鳥型だ。
「上だ!気をつけて!来るよ!」
僕は上に向かい銃を構え引き金を引いた。
バンッ!
という音と、
GYAAAAAAAAAAAAAAA
という魔獣の悲鳴。
僕は剣を構え魔獣の攻撃に注意を払う。魔獣は僕の後ろを見た。
「しまった!」
魔獣は光華ちゃんめがけて飛んでいく。
「させるか!」
僕は光華ちゃんの前に立ち、剣を振り下ろす。その攻撃を避けた敵は僕の胸に思いっきり体当たりをしてきた。
(まずい。)
避けなければ最悪死亡する危険がある。だが避ければ光華ちゃんに当たる。僕はいつの間にか、光華ちゃんの剣を奪っていた。【石口流双剣術守の技盈月】
僕らの周りに真空の盾が出来る。それに突っ込む魔獣。
「かかった!」
魔獣は見事に真空に切り刻まれる。しかし魔獣は致命傷を追ったにも関わらず動き出す。
「嘘だろ!?」
僕は二つの剣を構えた。
GYAAAAAAA
僕は敵の魔力暴走が始まったことに気付いた。魔法は流石に剣では弾ききれない。
「うおおおおおおおおおお!!」
僕はいつの間にか叫んでいた。
【石口流双剣術攻の技電光斬】
この技はようは猪突猛進の技だ直線距離を一瞬にして駆け抜け、その運動エネルギーを剣撃に変え切る技だ。利点はダメージが高くスピードが速い。欠点は直線距離なので行動を読まれやすいといった感じだ。
だが今の敵は魔力暴走により魔法が発生するまでは身動きが取れていない。そして見事に魔獣を殺すことに成功した。
「ふぅ……何とかなったな。光華ちゃん、大丈夫?」
とその言葉をかける。光華ちゃんはポカーンとした表情で僕を見てた。そして気付いた。僕は光華ちゃんの剣を奪い双剣として使っていた。
「レン君……?」
「……。あ~武器勝手に取っちゃってごめんね。」
といって武器を返そうとするが、光華ちゃんは手を差し出してはくれない。
「光華ちゃん、この事は出来るだけ周りに言わないでくれるかな?」
コクリと頷く光華ちゃん。だがそれ以上の反応はない。いったいどうしたのだろう?しばらくすると、だんだんと目に輝きが戻ってきた。
「あの、レン君、助けてくれてありがとね。」
元気になったかと言えばそうではない。どこか無理をしているのか。無理やり笑顔を作っているような印象を受ける。
「あ、うん。それよりどうしたの?いきなりしゃべらなくなったよね?」
「あの、えっと、それは……。」
「まぁ、言いたくないなら言わなくてもいいよ。僕も片手剣使いだって言っちゃったしね。」
「やっぱり双剣の使い手だったんですね。」
「うん。だけど先輩に片手剣を使った方が良いって言われてね。」
「そう、なんですか。実は、私の父親は双剣使いに殺されてしまったんです。それで双剣を使う人はみんな嫌いになってしまった。なのにその双剣を使う人に助けてもらった。それで少し昔の事を思い出してしまいました。」
「……。」「双剣を使う人はみんながみんなそういう人じゃ無いってコトは知っています。現に今助けてもらいましたし……。でも、でもっ!」
そういって光華ちゃんは泣き出してしまった。僕はどうすることもできずにいた。しばらくして、光華ちゃんは泣き止んだ。
「あの、ごめんなさい。いきなり泣き出してしまって……。」
「……。」
昔、お父さんが言っていた。双剣を使うものとしての誇りを捨て、盗賊になったやつがいる、と。
「……。寮に戻ろう。」
「はい……」
男子寮と女子寮はまったくの逆方向だ。つまりここで別れるのだ。僕は今はそっとして置いてあげよう。次会うときに笑顔で会えることを信じて……。