key
あの人に鍵をもらった。あの人のお住まいは、高級マンションの一室。
私は、あの人にもらった鍵を使ってあの人の部屋に入る。
あの人は、いない。あの人は、私の大学の准教授(助教授)そして、私の最愛の人。
あの人がいないことを最初から知っていた私は、靴箱に自分の靴を隠した。
今日、私がここにいることをあの人は、知らない。
あの人の部屋は、まるで生活感がない。
物がない。
「これじゃあ、掃除することもできないじゃない・・・。」
この部屋には、何度も来たことがあったから綺麗なことは、前から知っていた。
それでも何かしたいと思った。
スーパーで買ってきた野菜と肉でシチューを作ろうと考えていた。
なんだか新妻になった気分で鼻歌が零れる。
埃一つない部屋に掃除機をかけた。
まだ、早いと思いつつ風呂も沸かした。
寝室に行き、ベッドのシーツを剥がしていく。
そのシーツを洗濯機にいれ、新しいシーツを引っ張り出す。
もうすでに日が沈んでいた。
私は、あの人のベッドにダイブした。
新しく出したシーツなのにシャンプーとあの人の煙草の香りが仄かに漂う。
あの人は、ヘビースモーカーでミントの香りのシャンプーを使っている。
私は、その香りに包まれていつしか眠りの中へ・・・・。
ガチャン。ガタっ。
午前1時。あの人が帰ってきた。
私は、寝たふりをする。
あの人は、お風呂に入る。
いつものように缶ビールでも開けて、テレビをつけるのだと思っていた。
今夜は、違った。
半裸でベッドに腰を掛けて髪を乾かし始めた。
あの人の重みで沈むベッド。
バスタオルで髪を拭きながら吸う煙草の煙。
濡れた彼の黒髪。
大きい彼の背中。
私は、びっくりさせるつもりで彼の大きな背中に抱きついた。
彼は、私に少しも驚いた様子を見せない。
「来るのなら、電話でもすればよかっただろう。」
「いいの。」
彼の手をバスタオルから除けて、私が彼の髪の毛を優しく拭いてあげる。
彼は、されるがままに私に身を預ける。
「もういいよ。」
彼は、私の手を取りその手に軽い接吻をする。
暗闇の中、二人で向き合い笑い合う。
彼は、私の頬と唇に接吻を繰り返す。私は、照れくさくなって、マクラに顔を埋める。
「こんなに可愛い妻がいたらなぁ・・・」
「えっ?なぁに?」私は、意地悪く彼に聞き返す。
「・・・なんでもないよ。」
・・・・結婚かぁ。二人で何度も話し合った。
私は彼に、もし大学を卒業しても好きでいられたら、結婚すると言った。
彼は、渋々それに同意した。
あと1年で私は、卒業する。
髪の毛を乾かした彼が、ベッドに入ってくる。
私は、彼に掛け布団を掛けてあげる。
彼は、私を抱き締めて眠りに就く。このまま朝まで起きないだろう。
疲れているであろうに、いつも優しいヒト。・・・・最愛の人。
私は、彼の胸板に顔を埋めて、もうひと眠りする。