5.声の正体 丹羽 part1
「ちわー、芋蔓宅配の丹羽です。ご注文いただいた、本日の荷物お届けにきました。いつものとこに置いとますんで、サインいただけますか?」
「はーい、今手離せないんで、先に運んどいてください。すぐに行きますね」
返答を確認した後、早速ペットショップの裏口から店内に移動する。
今日の荷物は小包が多い。四段重ねにし両手で抱え込まないと持てないな、往復してもいいけど余裕で持てる重さだし一度に運ぼう。
「いつ聞いても癒されるなあの声、美人だし」
茅野さんだったかな、あの店員のことだ本当にすぐ来るだろう。
とりあえず運ぶか。
荷物両手に納品場所に近づいたその時だった、
「丹羽?」
すぐ側の爬虫類コーナーから聞き覚えのある声が聞こえた。
「今、誰かに呼ばれた気が……」
立ち止まり、周囲を確認してみる。
薄々気づいてはいたが、当然のごとく周囲には誰もいなかった。
さっきの声はすぐ側で聞こえた。
他の店員や客は離れた位置にある正面入り口近くにいるため、大声を出さない限りここまで届かないだろう。インコやオウムなど鳥類コーナーはさらに奥に存在するため、鳥類のいたずらでもない。
観葉植物の陰に子どもが隠れていた、というオチを期待したのだがこれもすぐに否定されてしまった。
寒気と湧き上がる恐怖心を必死で否定してみる。
自分がオカルト系・絶叫系にめっきり弱い質であるのは周知の事実だ。
「疲れてんのかな……」
そう言いながらも、おそるおそる顔を声がした方に向けてみる。
そこには、何種類もの爬虫類や昆虫類がケージごとに並んでおり特に変わった様子は見られない。
声はもう聞こえない。
「気のせいか」
無理やり安心感を得ようと、大きく息を吐いたまさにその時、
「やっぱり、丹羽じゃねぇか! 久しぶりだな」
「うわぁ」
恐怖八割、驚き二割で思わず手に持っていた荷物を放り投げてしまった。
自分が極度の恐がりなのは、自覚済みだけど文字通り腰を抜かしたのはさすがに初めてだ。
「あーあ、相変わらずドジな奴だな。茅さんの仕事増やすんじゃねーぞ。馬鹿」
声は真横のケージから発せられたようだ。その時は、声の主が誰に似ているのか思い出す余裕など全くなかった。
一刻も早く立ち去りたい。
本能からくる焦りが強いのに、目線は声のした方から反らせずにいる。
一匹の白蛇が尻尾でケージの内面をぺシぺシと叩きまくっているのが目に入った。
その気がないのに、目が合ってしまう。
「おい、聞いてんのか、コラ!」
「ひぃぃぃっ」
未知への遭遇から足元がふらつき、腰を引き摺る様にしてその場を後退する。
「あ゛あ゛ーっ……」
情けないと自分の姿を自覚するより先に、恐怖心が勝った。
後に僕は、この一連の出来事を深く思い直すことになる。この日の出来事は、僕の運命そのものを変えたのだから。