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白蛇様?  作者: 黄緑
一章
3/18

3.奇妙な新人①

ここは爬虫類コーナーの一角。飾り木のやや上方、葉っぱが生い茂る位置。

「……」


きっと今の自分を、(はた)から見る奴がいたら、何をそんな目で見下ろしているのかと問うだろう。

この位置からは左右、前方の全貌が見下ろせるが、今は左方から目が離せない。



そいつは理解できない何かに必死のようだ。

ここ一週間ほど住人のいなかった左隣のケージに、新入りが入ったのだ。素直に嬉しい。

右隣のケージには黒イモリが3匹ほどいるのだが行動がよくわからない。話しかけても無感心なくせに、たまに構ってほしいのか接するガラスに張り付きちょろちょろ動き回る。いいかげん、まともな話し相手がほしかったところだ。


退屈していた時に、突如入ってきた新人。

可哀想な奴(主に頭に中)みたいだから、余計に目が離せなくなった。


ケージを覗く少年の頭部の隙間から一心不乱に体をくねらせて、視線を確保しようとしている白蛇に俺は意を決して話し掛けてみた。


「お前さ……」

「どけよ! 少年! 茅さんが見えねぇじゃないか! ここにはカブトムシいねーぞ。前方やや右方向にいる金魚で我慢しなさい金魚で!」

こちらの声など聞こえてないようだ。


普段、なかなか動こうとしない爬虫類だが、この白蛇は動きに反応にして体をくねらす。少年は、その動きに興味をもったらしい。自身も左右に動き、白蛇が素早く反応するのを楽しんでいる。くねらす度に歓声を挙げ、一向に移動しようとはしない。

一方、白蛇の方はというと、自分の行動が少年の好奇心をがっちり掴んでしまったことに全く気付いてないようだ。来たばっかりだというのに、この環境に戸惑うどころか早くも順応している。

しきりに店内を気にしており落ち着きは無い。そのため、全くこちらに気づいてないようだ。


「変な奴……」


今朝入ったばかりの新入りは、どうも今まで出会った奴らと違うようだ。

もう少し観察していてもよかったのだが、ちょっかいも出したくなり、

「おい」

少しトーンを上げて話し掛けてみる。

「うわぁ!」

白蛇が驚きの声を上げた。瞬時に店内から視線を戻すと、こちらを見上げてくる。

「なっ! カメレオンがしゃべった!」

「しゃべった! じゃないよ。お前、可哀想な奴だろ?」

「なんですかいきなり」


会話は可能のようだ。


*****


俺は突如話しかけてきたカメレオンに最初こそ驚いたものの、持ち前のポジティブ心でありのままを受け入れることにした。体が白蛇になった事に気付いた時の衝撃に比べればどうということない。

それに、同じ爬虫類。理解できる言語があって当然だろうと解釈した。


右隣のケージ、最初は葉っぱの色と同化しててわからなかったがちゃんと住人がいたらしい。声がした方へ視線を向けると、同じ立ち位置に移動してくる姿を確認できた。

そのカメレオンはイメージの中にある姿より大きい。今の体格比で同じくらいか、向こうの方が少し大きい程度だ。


明るい緑色の体躯は移動には向いていないらしく、動きはゆっくりとしたものだ。

尻尾がくるんと渦巻いており、目は図鑑等で認識していたものより輪郭がはっきりしている。瞳はきれいな漆黒で、蛇目線にでもならなければこうもじっくり観察はできなかっただろう。

ちょっとだけ役得した気分だ。


「可哀想な奴ってなんですか? 今日生まれ変わったばかりのデリケートな蛇心に向かって失礼な」

「言っている意味がさっぱり理解できん」

カメレオンは疲れた様子でため息をつく。

その憂いらしい表情を見て、呼び名(勝手に)決定。


「来たばっかで頭が混乱しているのか?」

「ふっ」

どうやら、俺の心境を聞いてくれるようだ。


「なんだよ」

「ふふふっ」

「しっかりしろ」

一旦俯き、フフッと低い笑い声を発した後、顔を上げる。

「聞いてくれよ、メレさん!」

「誰がメレさんだ!」

「惚れたんです」

少しの間、爬虫類コーナーに響く換気扇の音が大きくなったように感じた。


「惚れた?」

「ええ、一目惚れというやつです」

明るい緑色をしたメレさんの皮膚が茶色っぽく変色していく。

「そ、そうか。まぁ……気持は嬉し……くないがな、うん。ちょっと冷静になってくれ」 


「?」 

 

「誰に恋しようと自由だ。だがな、世間から見りゃ異常だぞ。同じ爬虫類として考えてやらんことも……やっぱ無理だ。種類が違うし、わかってくれ」

「誰がメレさんって言ったんですか! 妙な誤解しないでください」

「なんだ、俺じゃないのか」

メレさんは心底安心したのか、安堵のため息を吐いた。 

普通、間違っても爬虫類、それもオスっぽい奴に惚れたりしない。


「当たり前じゃないですか!」

「じゃあ誰にだ?」


変な誤解をしたメレさんにもわかるよう、俺は視線を店内へ向けた。

どうやら話し込んでいるうちに、俺の視線を邪魔する少年はどこかへ移動したようだ。

なんで、邪魔したかなあの少年。こっちは真剣に見守る義務実行中だったというのに。

「で、どいつに惚れたんだ? 俺でよければ相談にのるぞ」

俺は下半身に力を込め、ちょんちょんと左上方のケージを叩く。

頭部で叩いてもよかったが、まぁ照れ隠しってやつだ。


尻尾の先にはこれからの蛇ライフに欠かすことのできない重要人物がいるのだ。

メレさんの方を見てみる。どんな反応を示してくれるかな?

尻尾の先を凝視しているメレさん。

さっきは緑色からだったが、今度は茶色からこげ茶色へ皮膚の色が変色していく。


かれこれ三十秒程は経過しただろうか。


「お前の気持ちはわかった。だがな、他者の意見を聞くことも大事だぞ。言わせてもらう、やめておけ」

なぜか諭すように言われた。




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