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白蛇様?  作者: 黄緑
一章
2/18

2.目覚めは赤土と共に②

「開けろ! 誰かーー」


叫びつつ、ガラス張りの向こう側の状況を注意深く確認してみる。約2m前方には観葉植物、それを挟んだ先には壁一面、個別に分かれたおびだだしい数の水槽が並んでいた。よく見ると両生類コーナーや熱帯魚と書かれた派手な札があり、水槽の左隣にはうさぎコーナーもある。


すぐ右隣のケージは側面に大きな葉っぱが重なりあい邪魔をしているため、この位置からでは何がいるか確認できない。

左隣のケージには枯れ草の隙間にでかいタランチュラが蠢いているのを発見! いきなりの登場に情けない声を発してしまった。俺は後ずさりしながら幾度も頭を振り払う。


なんだよ、ここ。あり得ないって本当に!


あえて目を反らしたが、見ようと思えば悪夢に出できそうなドアップ顔面が拝めたであろう。

段々、ここがどこか認めざるおえなくなってきた。そんなに馴染み深くはないし、規模はまちまちだが誰もが一度は訪れたことはあるだろうその場所。


だけど、本来その場所とは決定的に大きさが違っている。


再び(ペットショップの爬虫類コーナーらしき場所で)叫んだ。


さっきから、大声で叫んでいるつもりだが、誰も来ない。

蛇に声帯があるなんて聞いたことないからもしかしたら、声なんて発せてないのかも。


ガラスのケージに張ってある値札には鏡文字で「新入荷、白蛇の突然変異種 価格 80.000」とある。

蛇の値段なんぞ知らないが、従兄弟が血統書付きゴールデンレトリーバーを買うために、五十万貯まるまでバイトに明け暮れていたのを思い出した。


犬の値段と比べてもいまいち安いのか高いのかわからん。

というか、白蛇なら別に突然変異種でもなんでもないじゃん。ただの、アルビノでいいじゃん。

俺はおかれた状況、思うように動かない体のストレスもあって暴れ回った。


尻尾が木材と接触する。

何度も何度も意味なく動きまくったせいで、嫌でも身体全体に痛覚があり神経が存在していることを痛感させられた。夢じゃない……。


しばらく叫びうねっていたせいで早くも疲労困憊だ。どうやら蛇には体力がないらしい。


「ハァ……」

俺は生まれ変わったのか?


別に蛇が嫌いってわけじゃないけど、せっかく生まれ変わるならやっぱり異世界で勇者とかせめて人間がよかった。

なんでよりにもよって変温動物? 

てか、なんで記憶持ち越し? 

なんで俺のとこには来て下さらないのですか? 神様……。


自分の名は冬木 煉。身長体重、血液型、生年月日、座右の銘、先月提出したレポートの内容、あれ? 家出る前エアコンの電源切ったけ? 左肘のかさぶたの状態……思い出していくうちに脱線していく。

若干怪しいところはあるものの、生前通りに思い出せると思う。


「ハァ……」

脱出という言葉も、状況を把握しようとすればするほど萎えてくる。

周囲は頑丈そうなガラスで囲われており、唯一の出入り口は頭上の遥か高み。

どうすることもできなかった。


「誰か嘘だと言ってくれ……」

先程まで喚いていたせいで喉にも疲れがたまってきた。

声を出すのも億劫だ。


「ハァ……」

これから一生、籠の中の蛇として人生をやり直すのだろうか?

なんて早くも鬱に突入しかけた時だった。


「今日からよろしくね」


俺はぐでった体勢のまま意識を声のする方へ向ける。



蛇目線のため巨人には違いないが、ガラス越しに黒髪を肩の位置でまっすぐに切りそろえた二重瞼の和風美人店員がいた。嫌みのない好奇心にあふれる瞳で見つめ、甲高いはずんだ声で話し掛けてくる。


警戒心が無いと言えば嘘になるが、少なくとも敵ではない事だけはなんとなく本能でわかった。


「ご飯あげるから待ってて」


どんな状況だろうと、ご飯と聞いた途端空腹を感じだすのは蛇も人間も同じらしい。

しばらくして、店員は長めのピンセットで薄いピンク色の肉をつまみ、俺の口元に近づけてきた。

普通、女性とは総じて爬虫類や昆虫類を毛嫌いするものだと思っていた俺は、躊躇いもなく自分(蛇)の世話をする店員に感心した。

いくら仕事とはいえ、爬虫類に話しかけることができるのも高ポイントだ。


生肉……元人間でも、目の前に明らかに食べ物と認識できる物があれば空腹には耐えられないらしい。

躊躇したのは一瞬で結局、店員の差し出した生肉をしょくす。


うん、大丈夫。

味はよくわかんなかったけど、腹は満たされた。

蛇のご飯が意外にまともだった事に安堵し、腹が膨れたことでやっと落ち着くことができた。


俺ってどんな図太い神経してるんだろ。 


後に知ったことだが、通常今回の様な餌は珍しい。

通常は冷凍マウスやヒヨコとか原型のわかる餌が与えられる。これがトカゲなら生きたコオロギなどだろうが。突然変異種ということで、ペットショップ側も試行錯誤しているようだ。


「よかった、食べてくれて。次は掃除するからちょっと別のケージに移っててね」


店員は俺を優しく拾い上げると別のケージに移動させる。

ふわりと遠ざかっていく赤土を見下ろしながら、単に体面積が違いすぎるだけかもしれないけど手のひらってこんなに温かいむしろ熱いものだっけ? と首を傾げる。




生前より俺は基本的にポジティブに物事を考える方だった。

前世への未練は断ち切れそうにないが、せっかく前世の記憶もちで蛇に転生したことだし、この蛇ライフを人間目線で満喫してみようと考え始めていた。


正直、そう思わないとどうかなってしまいそうで苦しかった。


それに……

再度、視線を店員へ向ける。

にこやかに作業している姿を見ていると人間だった頃の名残なのか、頭部やや下方、左側面にきゅんっていう痛みを覚えた。


店員に、ダメ元で話しかけてみなかったのも、掃除中あるいは移動している途中、脱走を試みなかったのもこの店員を気に入ってしまったために他ならない。万が一、驚かせて拒絶されてしまえば、この先、野太い声が特徴のもう一方の店員が俺の担当になりかねない。せっかく世話してもらうのなら好みの店員がいいに決まってる。


断固現状維持せねば。


やがて、掃除が終わったのか元のケージに戻された。

その際、彼女の名札が目に入る。

「茅野」

かやのって読むのかな? 下の名前も気になるけどとりあえず、茅さんって呼ぼう。




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