18.飼い主と家族 ①
「信じられない、どうなってるんだ?」
「先生! 今日手術予定だった柴犬もです!」
ざわついた室内。
目が覚めると、室内は昨日とは全く違う音で溢れていた。
一言でいえば、音というより活力が溢れている感じ。
一晩中、低い唸り声が発せられていた向かい側に目を向ければ、賢そうなシェパードがご主人どこ―散歩―と元気よく吠えていた。その鳴き声に昨日の辛そうな響きは一切感じられない。
獣医は一つ一つケージを見て回ったあと、俺の前に立った。
「この蛇もか」
獣医は俺を診察台へ運ぶと、テーピングを取り外して呟いた。
一方、俺は何のことかわからず、されるがまま状態で周囲を見渡した。
視線を高くしようと起き上ったところで、やっと意味がわかった。
「痛くない」
尻尾をブラブラさせてみる。
すっかりお気に入りになった自慢の尻尾。
変な方向に曲がって感覚が麻痺しかかっていたというのに、今では滑らかに波打つ。剥がれたり変形してしまった鱗も元に戻っていた。
すごいな、さすが異世界の獣医。
尊敬の眼差しを送っていると、さきほどまで唸っていた獣医はなぜか険しい表情を俺に向けた。
「君の仕業かい?」
何の事かわからず、首を傾げると獣医はまた何やら悩み始めた。
やがて、そんなわけないかと呟き元の温和そんな表情にもどる。
「今日の手術は中止だ。その他はいつも通りに。事務は飼い主に連絡を」
獣医はそう他のスタッフに指示をだすと、俺を元のケージに戻した。