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白蛇様?  作者: 黄緑
一章
1/18

1.目覚めは赤土と共に①

ザラザラした肌触りを頬に感じる。

「うぅ」

頭が重い。

身体が動かない。

これが噂に聞く金縛りというやつだろうか。


こういう時どうすればいいんだっけ。

確か、声を出せば金縛りが解けると聞いたことがあるようなないような。


「今日入荷したこいつの担当は君だ。まかせたぞ。希少種なんだから慎重にな」

「はい。この子のための予習はばっちりです」

野太い声と、緊張気味の甲高い声がすぐ近くで聞こえる。


誰かいるのか。


「あら? 店長、この子とぐろ巻いてないですね」

「おや、本当だ。心配することはないさ、まだこの環境に混乱してるためだろう。ところで茅野君、先週売れたフェレットの件だが……」


話声は、徐々に離れていきすぐに静かになった。あたりは換気扇の音らしき乾いた音しか聞こえない。

まだ、寝起きで頭が働かないためか周囲がボヤーと赤くライトアップされているように感じる。


あれ、確か俺は……

事故で死んだはず……。


思考がはっきりしない。

事故にあったことが大分昔のことのように感じる。

どのくらい、眠っていたのだろう。

体に受けた衝撃も跳ばされる感覚も鮮明に脳裏に焼き付いている。次第に覚醒してゆく意識と、事故の記憶がフラッシュバックし、一気に眠気が吹っ飛んだ。

徐々に目が慣れてきて、頭も冷静になってきた。


どこだここ?

あと、さっきからやたら主張するこの光はなんだ? 周囲を見渡した後、頭上を仰ぐ。


「っ!?」

せっかく覚醒しかかった脳がフリーズした。


光は遥か頭上にある人工的な照明器具から発せられていた。

なんだアレ? 誰かのいたずらか?


強い光だが、不思議と熱は感じない。

視線を元に戻そうとした瞬間、眩暈がした。クテッと顔を地に伏せる。

眼下にはざらざらした赤土? が敷き詰められており、しっかりとその感触を伝えてくる。


周囲を見渡しても乾燥した木材しかない。どうやら、病院に搬送されたわけではないらしい。全く別物の場所にいるようだ。



ふわふわ、さらさらで感触は合格だよ? でもどうせならベットの上で目覚めたかった。


木材の奥は暗くてよく見えない。


全く置かれている状況が把握できず、疑問符が頭の中を埋め尽くす。と、その時、脳裏に入荷しただの、希少種だの先程聞こえた野太い声が反芻した。


もしかして、人身売買の組織に捕まったのではないか? 日本人の臓器は高値で売れるとも聞いたことがある。


……いくらなんでも飛躍しすぎだろ、落ち着け!

しかし、一度想像したら、嫌な妄想は止まってくれなかった。

数日後、体重が半分になった自分を想像し真っ青になった。


冗談じゃない!


俺はまず立ちあがろうと両手を前に突き出そうとして、自分でも訳わかんないままバランスを崩し側面から倒れ込んだ。


「痛っ」

体の様子がおかしい。ヒリヒリする顔面へ手を伸ばそうとして、そこで違和感の原因に気付いた。

俺には手がなかった。否、存在していなかった。

拘束されているのか? と体を見下ろす。


三度みたびフリーズ。


鱗。光沢眩しい純白の鱗が視界いっぱいに広がっていた。一見硬そうなこの鱗、だが、少し体をずらしてみると抵抗なく可動したことから実際は柔らかいものであることがわかった。


なぜ、縄ではなくこんなもので?

組織のやつら(勝手に断言)の考えることはわからん。


こみ上げる怒りを抑えつつ、体をくねらせて外そうと試みるが鱗はしっかりと体に張り付いているようで、ずれる気配さえみせない。

ゴロゴロ転げ回っているうちに、鱗同士が擦り過ぎて痛みだしてきた。

……痛覚?

念のため足も見てみた。


結果、足も鱗で拘束されていた。というか長っ!

これはどうみても蛇……の尻尾だよな? いや、まさかね。


どーなってんだ?


フリーズした脳で懸命に状況を把握しようと再び周囲を見渡していると、光が木材に反射して、対面の空間に薄く浮かび上がっていることに気づいた。木材の奥はガラス張りのようだ。


それからふと自分の正面に視線を移した瞬間、フリーズの上にフリーズ。



右へ首を傾げる。ガラスに映る物体も同じ動作をする。

口を開く。寸分たがわず同反応が返ってきた。

どうしよう、リアルすぎる。


ここは落ち着いて深呼吸。

落ち着こう。落ち着け、落ち着くんだ……って落ち着け言い過ぎて意味わかんなくなってきた。


「なんでだぁー」

我慢できず、思いっきり叫んだ。

ガラスに映っているのは、尻尾の先がピンっと上を向いている一匹の白蛇だったから。


俺は白蛇になっていた。




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