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学パロ?それって学生運動パロディですか?

掲載日:2026/03/04

 放課後の部室。

 窓から差し込む斜陽が、山積みの同人誌と乱雑に並んだアクリルスタンドを赤々と照らし、舞い上がる埃を金色の粒みたいに浮かび上がらせていた。


 ハイテンションオタクのひなたは、机に肘をついてぐいっと身を乗り出し、瞳を爛々と輝かせている。

 対するダウナー系のかげは、死んだ魚のような目でスマホを見つめたまま、机に深く突っ伏していた。


「ねえねえねえ! 学パロって最高じゃない?」


「……うん。学パロはいいよね。二次創作なら避けては通れない道だし」


「だよね! 普段バチバチに殺し合ってるキャラがさ、学園だと生徒会とか部活でわちゃわちゃしてるの、尊すぎるんだよね!」


「うん……思想の対立とかあるし」


「そうそうそう! 『俺、お前のやり方認めねーから!』みたいな対立から始まる恋ね!」


「そう。執行部とか」


「あー、 生徒会執行部ね! 権力の象徴!」


「セクトとか」


「……うん?」


「内ゲバとか」


「……」


「……」


「……待って」


 影がゆっくり顔を上げる。


「なに」


「それ学生運動の単語じゃない?」


「え?」


「学パロって学生運動のパロディじゃないの?」


「違うよ?」


「違うの?」


「違う違う違う! 普通はさ、勇者が生徒会長で! 魔王が風紀委員長で! 校則巡ってバチバチやるの!」


 影は少し考えた。


「……それ、完全に自治会の権力闘争だね」


「違うよ!」


「生徒会は体制側(当局)だし」


「違うよ!」


「風紀委員は取り締まりの実行部隊」


「違うよ!」


「……つまり権力闘争」


「怖い怖い怖い怖い! なんで学園ラブコメが内ゲバになるの? 青春ってそういうものじゃないから!」


 影はスマホを置いた。


「……主人公は最初ノンポリ」


「ノンポリ?」


「でも友達が不当逮捕されて」


「逮捕?」


「だんだん運動に目覚めていく」


「青春が重い!」


 陽は机を叩く。


「私の想定ではさ! 文化祭でトラブルとか起きて!」


「うん」


「ヒロインが助けてくれて!」


「うん」


「ちょっと距離縮まるみたいなやつなの!」


 影は静かに言った。


「……文化祭で機動隊が来るの?」


「来ないよ!」


「来ないんだ」


「来ないよ!」


「校舎占拠とか」


「しないよ!」


「バリケードとか」


「作らないよ!」


「鉄パイプと角材?」


「ラブコメに出てこない武器! そもそもラブコメに武器出さないで!」


 影は少し考えた。


「……でも」


「なに」


「校門のバリケードで愛を誓うの、ちょっとロマンある」


「感化されないで!」


 陽は机を叩いた。


「お願いだから屋上でパン食べて、購買のメロンパンはんぶんこして!」


 影は少し考える。


「……屋上で」


「うん」


「ビラ作る」


「パン食べて!」


「ビラ作って、アジテーション」


「パン!」


「革命の成就のために」


「パァァン!」


 しばらく沈黙。


 夕日が部室を赤く染める。


 影がぽつりと呟いた。


「……でもさ」


「なに」


「革命部とかあったら楽しそうじゃない?」


 陽は少し考える。


「……部費でヘルメット買うの?」


「うん」


「文化祭の展示は?」


「火炎瓶の歴史」


「ダメな部活!」


 二人は顔を見合わせた。


「……文化祭で蜂起するの?」


「うん」


「風紀委員が機動隊?」


「うん」


 また沈黙。


 そして。


「……ちょっと面白いかも」


 奇妙な連帯感が生まれた瞬間。


 部室のドアが無慈悲に開いた。


「お前ら、いつまで残ってる。テスト勉強してるか?」


 顧問の先生だった。


 二人は同時に現実へ引き戻される。


 長く伸びた二人の影が、オレンジ色の床の上でゆらゆら揺れていた。


「……革命より先に、単位落とすかも」


「……現実は、当局せんせいに勝てないね」


 青春はだいたい、高潔な思想闘争じゃなく、目の前の赤点との戦いに敗北するのだ。

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