学パロ?それって学生運動パロディですか?
放課後の部室。
窓から差し込む斜陽が、山積みの同人誌と乱雑に並んだアクリルスタンドを赤々と照らし、舞い上がる埃を金色の粒みたいに浮かび上がらせていた。
ハイテンションオタクの陽は、机に肘をついてぐいっと身を乗り出し、瞳を爛々と輝かせている。
対するダウナー系の影は、死んだ魚のような目でスマホを見つめたまま、机に深く突っ伏していた。
「ねえねえねえ! 学パロって最高じゃない?」
「……うん。学パロはいいよね。二次創作なら避けては通れない道だし」
「だよね! 普段バチバチに殺し合ってるキャラがさ、学園だと生徒会とか部活でわちゃわちゃしてるの、尊すぎるんだよね!」
「うん……思想の対立とかあるし」
「そうそうそう! 『俺、お前のやり方認めねーから!』みたいな対立から始まる恋ね!」
「そう。執行部とか」
「あー、 生徒会執行部ね! 権力の象徴!」
「セクトとか」
「……うん?」
「内ゲバとか」
「……」
「……」
「……待って」
影がゆっくり顔を上げる。
「なに」
「それ学生運動の単語じゃない?」
「え?」
「学パロって学生運動のパロディじゃないの?」
「違うよ?」
「違うの?」
「違う違う違う! 普通はさ、勇者が生徒会長で! 魔王が風紀委員長で! 校則巡ってバチバチやるの!」
影は少し考えた。
「……それ、完全に自治会の権力闘争だね」
「違うよ!」
「生徒会は体制側(当局)だし」
「違うよ!」
「風紀委員は取り締まりの実行部隊」
「違うよ!」
「……つまり権力闘争」
「怖い怖い怖い怖い! なんで学園ラブコメが内ゲバになるの? 青春ってそういうものじゃないから!」
影はスマホを置いた。
「……主人公は最初ノンポリ」
「ノンポリ?」
「でも友達が不当逮捕されて」
「逮捕?」
「だんだん運動に目覚めていく」
「青春が重い!」
陽は机を叩く。
「私の想定ではさ! 文化祭でトラブルとか起きて!」
「うん」
「ヒロインが助けてくれて!」
「うん」
「ちょっと距離縮まるみたいなやつなの!」
影は静かに言った。
「……文化祭で機動隊が来るの?」
「来ないよ!」
「来ないんだ」
「来ないよ!」
「校舎占拠とか」
「しないよ!」
「バリケードとか」
「作らないよ!」
「鉄パイプと角材?」
「ラブコメに出てこない武器! そもそもラブコメに武器出さないで!」
影は少し考えた。
「……でも」
「なに」
「校門のバリケードで愛を誓うの、ちょっとロマンある」
「感化されないで!」
陽は机を叩いた。
「お願いだから屋上でパン食べて、購買のメロンパンはんぶんこして!」
影は少し考える。
「……屋上で」
「うん」
「ビラ作る」
「パン食べて!」
「ビラ作って、アジテーション」
「パン!」
「革命の成就のために」
「パァァン!」
しばらく沈黙。
夕日が部室を赤く染める。
影がぽつりと呟いた。
「……でもさ」
「なに」
「革命部とかあったら楽しそうじゃない?」
陽は少し考える。
「……部費でヘルメット買うの?」
「うん」
「文化祭の展示は?」
「火炎瓶の歴史」
「ダメな部活!」
二人は顔を見合わせた。
「……文化祭で蜂起するの?」
「うん」
「風紀委員が機動隊?」
「うん」
また沈黙。
そして。
「……ちょっと面白いかも」
奇妙な連帯感が生まれた瞬間。
部室のドアが無慈悲に開いた。
「お前ら、いつまで残ってる。テスト勉強してるか?」
顧問の先生だった。
二人は同時に現実へ引き戻される。
長く伸びた二人の影が、オレンジ色の床の上でゆらゆら揺れていた。
「……革命より先に、単位落とすかも」
「……現実は、当局に勝てないね」
青春はだいたい、高潔な思想闘争じゃなく、目の前の赤点との戦いに敗北するのだ。




