第9話 寝不足は失敗のもと(2)
「ちぇっ、お金はあるところにはあるんだな」
思わず口に出た。私はその言葉を発したことをすぐに後悔する。
「ああ、そうだ」
(しまった!)
そう思った私は後ろから聞こえた低い声にすぐさま反応した。ナイフを抜くのはまだだ、銃を持っていたらすぐに発砲される危険がある。
一人は背が高く、ひと目で体格が良いのがわかる男。その後ろには中背でやせ型の男が立っている。二人の男は黒いスーツに身にまとっていた。見たところ、これといった武器は持っていない。
「そうね。お金持ちは羨ましいわ」
そう言って平然と大男の横を歩いていく。何か動きがあればナイフを抜いて抵抗しよう、そう思っていた。
彼はすれ違う私を、頭から足先まで舐めまわすように見つめる。
「いい女かしら?」
「ああ、ちと若いけどな」
やせ型の男がそう言ったと同時に、大男は私の左腕を後ろから強く掴む。人間にしてはいい反応だ。
「手を離してくれる?」
「いや、そのナイフを握られたくない」
私はその言葉に左足に仕込んであったナイフを右手で抜こうとする。だが彼は私の左腕を引いて、それすらも阻止された。
「どうする嬢ちゃん」
「そうね。こうするわ」
私は掴まれたままの左腕に力をいれると、そのまま上へと放り投げる。その巨体は二、三メートルほど宙に浮くとそのまま地面へと落ちていった。




