第23話 お前、許さん(8)
「じゃ、これお礼です」
アイツはそう言うと背伸びをしてつま先立ちになる。そしてラルの頬へと唇を当てた。
な、何いいいい!!
思わず身を乗り出しそうになるが、ここはぎりぎりこらえた。
「サキさんって欧米出身ですか?」
「えっ、あっ、そうかも」
「あー、そうなんですね。でも、ニホンではあまりそういうことは、しないほうがいいですよ」
ラルは平然と言うと、そのまま何事もなかったかのように廊下の奥を指差す。
サキはその態度が面白くないのか、少し拗ねたように口を尖らせた。
いい気味だ……キスはマジで許せんが。
「あの角を右に曲がると事務室に戻れるので、そこで『案内が終わった』と報告してください。僕はここまでなので」
「あっ、そうなんですね。ありがとうございました」
サキはさっきまでの不満げな表情とうって変わり、彼に明るく微笑むと深々とお辞儀をした。
そんな彼女に笑みを返すこともなく、ラルは軽く手を振ると廊下の奥へと向かって行った。
「マルス、いつまで隠れてるの?」
「やっぱりバレてたか」
サキの言葉に私は段ボールの陰から這い出る。そして彼女のほうへと歩み寄る。
「お前、ラルにキ、キスとか」
「キス? そうね。でも参ったわ、全然振り向いてくれないんだもん」
「そうだな。お前には無理だな」
彼女の言葉に私は勝ち誇ったように胸を張った。
どうだ、ラルは私のものだ。そう言わんばかりに。




