第19話 お前、許さん(4)
「しゃ、社長」
廊下の陰でラルを見張っていた私は、社長の姿に驚いた。
「マルス、何してるんだ?」
その言葉に私は思わず嘘をついた。
「あっ、忘れ物をして」
「そうか。ロッカーにはちゃんと鍵をかけろよ」
「はい」
一度、下着泥棒が入ったことがあり、建物の入り口がオートロックになった。
「うちは女性社員が多いからな」
そんな社長の言葉に「もっと早くやっておけよ」と心の中で思った女性社員は多かったと思う。
不審な人物が工場近くをうろうろしているのが、その前から確認されていたからだ。
それでも用心のためとロッカーには必ず鍵をかけるルールになっている。
「ラル、どうした?」
「あー、サキさんがトイレに行ってて」
「そうか」
思わず見つかってしまったのでラルに何気なく声をかけ、そのままロッカールームへと向かった。
中に入るふりをして、ラルの視線が逸れたことを確認すると壁際に身を隠した。
「サキは何してるんだ。早く出てこい」
私は見つからないように身を屈め、息を殺しながら扉をじっと見る。
「そう、そうなのね」
「そうなんですよ」
おばさんと雑談をしながらトイレからでてくるサキ。アイツは情報部員だけあって、人に取り入るのは得意だ。
きっとこの短い時間で二人は仲良くなってしまったのだろう。
「ふっ、おばちゃんを取り込まれるとやっかいだな」
おばちゃんは事務でもやり手で誰も逆らえない。社長にさえ意見を通すこともある。
サキはおばちゃんにお茶でも飲んでいくように言われるが、「まだ案内が終わってないので」と丁寧に断るとラルと歩き出した。




