第16話 お前、許さん(1)
万が一もないと思うが、アイツはサキュバスだからな。ラルも男である以上……その、なんだ、油断はできん。
「よし、後をつけるか」
私はそう決めると、前のレーンを見ている緑に目をつける。
飯塚緑、名からして代々ニホンに住んできた家系だろう彼女は、明るく元気なのが特徴だ。背が低く丸みを帯びた顔の彼女は、工場内では非常に人気者がある。
奴なら私のいうことは聞いてくれるだろう。
「緑、トイレいくからこっちも頼めるか」
「わかりました。早めに戻ってきてくださいね」
「うん、わかった」
仕事は彼女に任せ、私はラルの様子を見にいくことにした。
☆
「ラルは……いたいた」
ラルとサキ、二人は事務室から出てくるところだった。入り口のところで「失礼しました」と挨拶をすると、扉を閉めて何やら話しだした。
「うーんと、トイレはここのは男女兼用。工場のほうの三ヶ所は男女別です」
「わかったわ」
そう言うとサキは左手でラルの腕をそっと掴んだ。
「お、お前!」
聞こえないように、そっとつぶやく。アイツ、私も触ったこと……いや髪とはいえ、触られているだけ私の勝ちだ。
私は怒りを抑えるべく、心の中でそう無理矢理納得させた。




