第14話 お前、名前でバレバレだろ(1)
朝っぱらから、スマホがアパートの一室で鳴り響いた。
壁が薄いので勘弁してほしい。隣や下の部屋から苦情がくる。
そう思いながらも眠い目をこすり、部隊からの電話に出ることにした。
「ニーイチ、緊急指令がでた」
「はい」
エリート暗殺者の私は、いつでも冷静沈着である。職場ではたまに慌てることもあるが……あれはラルのやつが私を惑わすからだ。
いつも通りに平然と答えた私は目の前の鏡に自分を映す。
綺麗に毛先の整ったショートボブ、銀髪なのを差し引いてもあの俳優の女には負けてない。心の中で自画自賛する。
アイツにもう一度ブラッシングなどされたら、私の心臓がもちそうにない。
だから昨日は久しぶりの休みで寝過ごしたいところを、私は美容院に行ってきたのだ。もちろんヘアケアは念入りにお願いしておいた。
「聞いてるのか?」
「ああ。明日、情報部隊から一人が缶詰工場勤務になるんだろ」
「そうだ。では、頼む」
「お、おい」
誰がくるとかの情報はないのか。
私はそのまま待ち受け画面に戻ったスマホを見つめる。そこには飲み会で隠し撮りした、ラルの姿が写し出されていた。
そういえば、アイツの好きな有名人の名前を同僚に無理矢理言わされてたのを、この飲み会で盗み聞きしたんだった。
まあ、誰が工場に来ようが関係ないか、そう思った私だった。




