第13話 おしどり……ふっ、悪くはない(2)
やっぱり無理でした。
「ふあ、ああああああ」
「変な声、出さないでくださいよ」
「だ、だってだな……ぬああああああ」
恥ずかしい、これは恥ずかしすぎる。指が頭皮に当たるたびに、変な声が出てしまうではないか。
それにやり慣れているのか、非常に手際がいいのだ。
「もう、枝毛も凄いですよ」
「お、お前、みんなの前で! うあ、ああああああ」
ダメだ、鏡の中の私はもうへろへろで、耳まで真っ赤だ。限界が近い。
「マルスさん、顔が真っ赤ですけど体調悪いんですか?」
「い、いや……体調はいいぞ。うん、悪くない」
「なら、大丈夫ですね」
そう言うとさらにブラッシングを進めたラル。
いい加減にもう限界だ。そう思った時だった。
「これで終わりです。綺麗になりましたよ、マルスさん」
「綺麗……本当か!?」
「ええ、髪の毛は綺麗なほうがいいですもんね」
「あ、ああ、そうだな。髪の毛か……」
なんだ、ぬか喜びさせやがって。
私は不機嫌そうに頬を膨らませる。そして立ち上がろうとした時、周囲の視線に気がついた。
「二人、付き合っているって本当だったんだ」
一人が放ったその言葉にラルは平然と答えた。
「他にやって欲しい人がいればやりますよ」
「えっ!?」
その言葉に一人、パートのおばちゃんが手を上げたのだった。
お前、私だからやってくれたんじゃないかのかよ!
その後、私たちには夫婦で羽繕いをする鳥になぞらえて「おしどり夫婦」と言われ、しばらくの間からかわれたのだった。




