第12話 おしどり……ふっ、悪くはない(1)
「寝不足ですか?」
「ああ、こんだけ残業が続くとな」
私は苛立ちを隠さずに言い放ち、投げやりに銀色の髪をかきあげた。
もう忙しくて、トリートメントもさぼりがち。吸血鬼だって髪が絡まるとイライラするんだ。
いい加減にしろ、忙しいにもほどがあるだろ。
乱暴に通した指が引っかかり、「痛っ」と思わず声が漏れる。その声を聞き逃さなかったのか、ラルは私に視線を向けるとこう言った。
「あとでブラシかけるの手伝いましょうか?」
「えっ、あっ……いや、いい」
私はラルのその提案に思わず頼もうかと思ったが、恥ずかしくなってやっぱり断る。
お前、女が男に髪を触られるのがどれだけ恥ずかしいか分かってないだろ。
「姉のを手伝ったことがあるので」
「お前、姉がいるのか!?」
「はい、結構歳が離れてますけど」
そうか、それなら安心して任せられるなって、何やらせようとしてるんだ。
無理だろ、ラルに髪の毛を触られてら恥ずかしくて死ぬ……いや、まてよ。そうだ、男性の美容師だと思えばいけなくもないのか。
そう言えば美容院も行けてない。お陰でショートボブがセミロングぐらいの長さになってしまった。
「じゃあ、そうだな。休憩の時にでも頼もうかな」
「はい。じゃ、休憩室でやりましょうか?」
「ああ、よろしく頼む」
そうだ。美容師だと思えば大丈夫だ。私はそうもう一度、心に言い聞かせた。




