異世界転生したけど、スキルが「お疲れ様でした」だった件
俺の名前は田中太郎、29歳のブラック企業サラリーマンだった。過労死寸前まで働いて、ついに電車で倒れた。気がついたら異世界にいた。
よくある転生パターンだ。しかし、俺に与えられたスキルは、他の転生者とは明らかに違っていた。
『スキル:【お疲れ様でした】』
「は?」
女神らしき美少女が困った顔で説明する。
「あの、太郎さん。あなたのスキルは少し特殊で……使い方がよくわからないんです」
「意味不明すぎるだろ!普通は『剣術』とか『魔法』とかじゃないのか?」
「申し訳ございません。とりあえず冒険者として登録してみてください」
◆◇◆◇
王都の冒険者ギルドで、俺は受付嬢のリーナに事情を説明していた。
「『お疲れ様でした』? 初めて聞くスキルですね」
「俺も困ってるんだ。どうやって使うかもわからない」
その時、ギルドに血だらけの冒険者パーティが駆け込んできた。
「助けてくれ! 仲間が魔物に!」
戦士の男性が倒れそうになる。見ると、極度の疲労と精神的ショックで今にも倒れそうだった。
咄嗟に俺は彼の肩に手を置いて言った。
「お疲れ様でした」
その瞬間――。
『ピロリン♪』
『【お疲れ様でした】が発動しました』 『対象の疲労度:完全回復』 『対象の精神状態:安定』 『対象のHP・MP:全回復』 『経験値ボーナス:1000%獲得』
戦士の男性の傷がみるみる治り、生気が戻った。
「え……? 体が軽い。心も落ち着いて……」
ギルド中がざわめく。
「おい、あの新人……魔法使いか?」
「いや、魔法陣も詠唱もなかった……」
◆◇◆◇
その日から俺の冒険者人生が始まった。
スキル『お疲れ様でした』の効果は想像以上だった。疲れた人に「お疲れ様」と声をかけるだけで、あらゆる疲労が完全回復する。精神的ダメージも回復する。HPとMPも全回復する。さらに経験値ボーナスまで付与する。
最初は弱そうなパーティに声をかけていたが、噂が広まるとS級冒険者のパーティが俺の前に土下座していた。
「太郎さん! 今日もダンジョン攻略お疲れ様でした!」
「あの、俺何もしてないんですが……」
「いえいえ! 太郎さんがいるだけで安心してダンジョンに挑めます!」
気がつくと俺は「疲労回復の聖人」と呼ばれ、王国で最も有名な冒険者になっていた。
◆◇◆◇
ある日、王国に魔王軍が侵攻してきた。勇者パーティが出撃したものの、魔王の力は圧倒的で、満身創痍で帰還した。
「もう……だめだ……」
勇者リウムが絶望的な表情で呟く。
俺は、勇者パーティ全員の前に立った。
「みんな、今日は本当にお疲れ様でした」
『ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪』
『【お疲れ様でした】が進化しました!』 『新スキル:【皆さん本当にお疲れ様でした】』 『効果:全状態異常回復・能力値上昇・新スキル付与・レベル上限解除』
勇者パーティ全員が光に包まれ、見違えるほど強くなった。
「これは!」
「太郎さん、あなたこそ真の勇者です!」
◆◇◆◇
魔王軍は撃退され、王国に平和が戻った。
俺は今日も冒険者ギルドで、疲れた冒険者たちに声をかけている。
「今日もお疲れ様でした」
この世界で気づいたことがある。「お疲れ様」という言葉は、相手を労い、認める最強の魔法なんだ。
前世でも今世でも、みんな頑張っている。その頑張りを認めて、労うことで、人は再び立ち上がれる。
俺のスキルは戦闘用じゃない。でも、この世界で最も必要とされる力だったんだ。
受付嬢のリーナが微笑みかける。
「太郎さん、今日もお疲れ様でした」
「こちらこそ、リーナもお疲れ様」
俺たちは笑い合った。
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