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月華の双子  作者: せつか
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第六章 月華の初陣

六章 月華の初陣


ついに、武田軍が三河に到着した。

武田軍の兵力は約一万五千人。それに対して、織田軍は約三万人。徳川軍は約五千人。合わせて、約三万五千人である。兵力は圧倒的に織田軍と徳川軍が有利である。だが、武田軍には、精鋭揃いの騎馬隊がいる。この騎馬隊をどう倒すのかで織田軍と徳川軍の勝敗が決まる。

武田軍が三河に到着した瞬間に桜月と晃月は動いた。武田の忍者の攻撃を阻止するためである。敵から自分達を引き離すことならばすごく簡単だが、今回は、敵と対峙しないといけない。しかも、相手は複数が相手である。そのため、少し難易度が上がる。武田の忍者の中には、二人にとってはそこまででもないが、側近が言っていた、凄腕の忍者、霧島がいる。他にも、上級忍者が二人いる。その忍者全てを無力化させなければならない。大人しく縄につけばいいが、そうでなければ、進めないように足の健を切断するか、息の根を止めるしかない。そうならないように努力はするつもりだが、今は戦中だ。人がどれだけ死のうと、仕方がないのだ。

桜月は武田の忍者のいる場所と数を把握するために、[千里眼]の見る範囲を広げた。

武田の忍者は、上級忍者が三人、中級忍者が十人、下級忍者が三十人である。計四十三人だ。もちろん、上級忍者の中に霧島がいる。

忍者は二手に別れて、長篠城の近くまで続いている森を伝って、織田軍と徳川軍の固まっている右翼と左翼を同時に攻撃するみたいである。

なので、桜月と晃月も二手に分かれて、阻止することにした。桜月は右翼、晃月は左翼に向かった。

桜月はできるだけ強い霧島と戦いたかったため、晃月に霧島の情報だけ与えなかった。晃月にバレたらずるいと羨ましがられるだろう。


桜月が武田の忍者、霧島の元へ向かって数分。桜月は全力疾走で進んだため、霧島のところにすぐついた。そこから、中級忍者以下には見えないような速さで手刀をして気絶させていった。霧島は防いだ。右翼にいる上級忍者は霧島一人である。上級忍者二人よりも強いのだろう。

桜月の手刀を防いで、残ったのは、霧島と中級忍者二人であった。残り三人である。気絶した他の忍者は当分起きないので、放っておく。

桜月は手始めに、手裏剣とクナイを六本同時に投げた。一人につき、二つ当たるように調整した。本気で投げると、死んでしまうので、手加減してから投げた。

中級忍者は、一人が負傷し、もう一人がわずかなところで防いだ。もちろん、霧島は完璧に防いでいた。

負傷した中級忍者はもうほとんど戦えないだろうと踏み、桜月は糸で繋がれた二つのクナイを投げた。糸は特別性であるため、クナイなどで切ろうとしても切れない。

その二つのクナイは通り過ぎて、中級忍者に糸が巻き付いた。側近に使った技と同じである。

これで、残り二人だ。

今度は向こうから攻撃してきた。中級忍者と霧島は忍者刀とクナイを持って迫ってきた。おそらく、先ほどから桜月が遠距離攻撃しかしてこないことから、近距離が苦手なのだと誤解しているのだろう。だが、桜月は近距離が大の得意である。遠距離だとしても、[千里眼]を使えば問題ないが、使わない状態ならば、近距離の方が得意である。

近距離は、相手の動きがよく見えるため、避けやすい。それに、桜月がよく使う戦い方の桜蝶舞を使うには、近距離の戦闘がやりやすい。

桜月は忍者刀を取り出し、桜蝶舞で攻撃を受け返した。少し力が強かったのか、中級忍者は後ろに飛ばされ、木に身体全体を打ちつけて気絶した。

霧島は上手に力を分散させていた。

ついに、残りは霧島一人となった。一対一で戦えるのがとても嬉しいのか、桜月はうっとりとしている。

霧島と桜月との戦闘が開始した。最初は、霧島が攻撃を仕掛けてきた。

側近が言うには、霧島は速さがずば抜けているそう。だが、それ以上に桜月の速さは化け物じみていた。

桜月は霧島と長く戦いたいのか、手加減をしながら戦った。それでも、なるべく早く終わらせなければならなかったため、少し強く調整して戦った。

霧島は、最初から全力でやらなければやられると直感したのか、短期戦で来た。速さは全力で来て、一番殺傷能力のある、毒のついた短剣で攻撃してきた。桜月は、忍者刀で攻撃を受けず、少し避けた。すると、桜月の腕に短剣が掠った。これは、桜月が避けられなかったのか、全くもって違う。桜月はわざと掠らせるように避けたのだ。桜月は毒に対する耐性がある。それは他の忍者も同じだが、桜月は梓によって百をも超える毒を摂取して、耐性をつけていた。そのため、毒に耐性のある忍者に向ける毒とはどのようなものなのか気になったのだ。なので、わざと攻撃を受けた。

その毒は即効性で、大型の動物にも効く毒なのだ。そのため、霧島は安心しきっていた。だが、いつになっても桜月は倒れない。それどころか、普通に身体を動かしている。霧島は再び構えた。

毒は、とても猛毒なトリカブトが使われている。そのため、この毒を受けたものは必ず死ぬ。それを、霧島は何度も見てきた。ならば、自分の目に映っているのはなんだ。ものすごく元気に動いている。

桜月はトリカブトの毒にも耐性をつけていた。そのため、全くもってトリカブトの毒が効かなかったのだ。その霧島の攻撃を受けて、知っている毒だったため、桜月はがっかりした。

霧島は、毒が効かないとわかったのか、本来の目的地である長篠城の周辺へと向かおうとした。だが、桜月はそれを許さなかった。桜月の本来の目的は武田の忍者を長篠城に近づけないようにし、始末することだ。まあ、霧島と最後まで戦いたかったと言うのもないわけではない。

霧島が桜月を越えようと全力で走るが、桜月が先回りして防ぐ。このまま桜月の向こう側に行こうとしても無駄だと分かり、霧島は煙弾を使った。

しかし、桜月はこの戦が始まってから途切れずに[千里眼]を使っている。そのため、煙幕など桜月には無いに等しいのだ。

霧島は煙弾を使っても防がれたからか、戦うしか方法はないと悟ったのか、戦闘体制に入った。

そこから霧島は、暗器や忍術など様々な方法を駆使して戦ったが、どれも完全に防がれた。そしてついに、霧島が生み出せる攻撃はクナイ一本でのみとなった。

霧島は最後の悪あがきをしようと、自分の出せる全力で攻撃を仕掛けた。

その時の霧島は窮地だったからか、格上の桜月と戦ったからか、全体能力が一つ上の段階に上がっていた。霧島の特徴的な速さも上がっており、攻撃力も上がっていた。

それを見た桜月はうれしくなり、攻撃を避けるか受けながすかと思っていたが、完全に受け止めようと思った。

霧島のクナイと桜月の忍者刀がすごい力でぶつかったことで、金属同士による美しい高音が森中に水紋のように響き渡った。

霧島は全力を出し切ったのか、攻撃を終えると力が抜けていた。桜月は霧島の様子を見て、もう戦えないとわかったため、手刀で気絶させた。その際に、桜月は「ありがとう」と囁いた。

これほどまでに楽しい戦闘ができて上機嫌なのか、または全力を出してくれたお礼なのか、それはわからない。

霧島を厳重に拘束して桜月は織田軍のいるところへと向かった。


晃月が左翼に向かっている時。

晃月は桜月よりも少し遅く武田の忍者と対面した。速さに関しては、桜月の方が速いためである。

晃月は武田の忍者と対面した時から不機嫌であった。なぜならば、晃月の目の前にいる上級忍者の中に霧島がいなかったからである。

晃月は事前に、側近から襲ってくる武田の忍者の中に霧島がいることを知らされていた。おそらく、[千里眼]で霧島を見つけて、わざと晃月に霧島の情報を渡さなかったのだろう。だからだろう、桜月が少し嬉しそうにしていたのは。

この最近、桜月ばかり強い者と戦っている気がする。側近の時や、今回の霧島のこともそうだ。晃月も強い者と戦いたい。

晃月の頭の中には、ずるいという思いが渦巻いていた。そのため、武田の忍者を気遣う余裕なんて無くなっていた。

いつも行っている手加減も乏しいもので、上級忍者と中級忍者と下級忍者、合わせて二十二人を瞬殺してしまった。瞬殺と言っても、少しは手加減をしていたため、手足を折るなどの怪我で済んだ。武田の忍者どもは、あしを負傷した者が多かったため、そのまま拘束せずに放っておいた。

晃月は、特別なこともしておらず、ただ単に殴る蹴るなどを喰らわしただけである。だが、晃月の馬鹿力によって、手足の骨が折れたのである。

晃月は武田の上級忍者の一人の記憶を除いた。そして、針を使って全ての武田の忍者を気絶させた。

晃月は馬鹿力の割に、とても器用なのだ。そのため、針を使って様々なことができる。もちろん、気絶させることも可能である。

晃月は目的の武田の忍者を長篠城に近づけないことを完了したため、織田軍のもとに戻ることにした。もし、新たに忍者が来たとしても、桜月が[千里眼]で知らせてくれるだろう。

晃月は不満気に走った。


ー織田軍、中心部ー

桜月と晃月からの武田の情報により、戦は予定よりも損失が少なくなっていた。だが、情報だけでは損失は少なくならない。どうして損失が少なくなっているのかというと、縲麟が上手く戦場の動きを調節してくれているからだ。縲麟は戦略を考えるのもやっている。縲麟はとても優秀である。そのため、損失を少なくし、敵の兵を効率よく倒す方法を考えたりして、戦に貢献している。

信長は、縲麟の考えに関心し、自分の部下にしたと思っているが、天皇の遣いなため、それができなくて、変な感情になっている。大体、信長は欲しい物はすぐに手にいれたい主義なのだ。だが、今回ばかりは我慢しなければならない。それでも、今は戦に集中している。

武田の兵は最初、歩兵が数百人ほど来た。次に来るのは、騎馬隊だろう。

もうすぐ武田の忍者を始末しに行った桜月と晃月が帰ってくるだろう。あの二人ならば、武田の今の戦況や騎馬隊についての情報を集めてくれるだろう。側近はそう考えながら、信長を守るために待機していた。


信長が考えた戦略は、今まで誰も考えたことが無い物であった。

それは、“ぽうらんど“というところから来た、鉄砲という物を使う。その国の人のことを南蛮人と呼んでいる。

鉄砲は火縄銃と言って、威力はとんでもなく強いが、一発を打つのに時間がかかるのが問題であった。そのため、戦ではそこまで火縄銃は活用されず、大名などの娯楽として使われていた。だが、信長は火縄銃を戦で使おうと考えた。そのために、火縄銃を大量に購入した。火縄銃は一つでも民の五人ほどが一か月仕事しないでも充分に生活できるくらいの値段なのだ。これを実行できたのは、尾張が発展してきたからである。尾張が発展したのは、信長の政策のおかげである。

信長の考えた戦略は簡単に言うと、火縄銃を連続で撃つことである。だが、火縄銃は決して連続で撃つことはできない。そこで、信長が考えたのは火縄銃を三段回で交代しながら撃てばいいと言うものだ。実に素晴らしい考えである。これは、騎馬隊用に使う攻撃手段である。


桜月と晃月が織田軍の中心部、信長のいるところへと戻った。晃月が先に帰ってきた。どうやら、二手に分かれて武田の忍者を始末したらしい。もう忍者は来ないだろうとのことだった。

晃月は武田の上級忍者の内、一人の記憶を覗いた。記憶の中には、有力な情報があった。騎馬隊は明日の早朝に来るという情報である。そして、晃月は信長にその情報を知らせてから、すぐに姿を潜ませた。桜月に対するずるいという感情を抱いていたため、機嫌が悪かったのだ。

晃月が戻ってきてから少しして、桜月が戻ってきた。晃月とは違い、桜月はとても上機嫌である。桜月は[千里眼]で見た武田軍の様子を信長に報告しに行った。

武田軍の現在位置や、残りの兵力、武田軍の食糧は充分にあることなど、様々なことを報告した。その中で、信長を苛つかせる情報があった。それは、武田軍の腕の立つ武将や武田勝頼が昼間から酒を豪快に飲んでいると言うことだった。つまり、余裕だと自己表示しているようなものだ。酒を飲んで、酔っ払ったりしないのかと言うと、武田の領地では日本酒が有名で酒豪が多く、酒に強いため、酔い潰れることはほとんどないという。

信長の怒りを側近や信長の部下が必死で収めていた。幸い、武田軍は明日の早朝までは兵を仕掛けて来ないため、そこまで警戒する必要はない。

桜月は自分のできることが今は無いと考え、晃月のところに行こうと側近に聞いた。だが、側近も晃月の居場所を知らないと言う。一応、先ほど帰ってきたとは言っていた。桜月は晃月の機嫌が悪いのだと理解した。

晃月は昔から、機嫌が悪くなると、誰にも言わずに隠れる習性があった。

しかし、桜月の[千里眼]を使えばすぐに見つけられる。[千里眼]を使うと、【幻術】を使って近くの大樹の上に隠れている晃月がいた。

桜月はすぐに晃月のところへと向かった。

「どうしたの?機嫌悪いの?晃月」

「桜月ばっかり、ずるい」

晃月は拗ねていた。

「ずるい?」

「ずっと、桜月ばかり強い者と戦ってて、しかも、今回は[千里眼]でわざと霧島の情報を与えないようにしたよね」

「ごめん、晃月」

桜月はしょんぼりした。

晃月は桜月が謝ってくれたため、次の強い者との戦いは晃月がするということで許した。


その頃、縲麟はと言うと、心の中で叫んでいた。

縲麟は、信長の近くにいた。すると、自分の恩人であるあの兄弟忍者が来たのだ。話しかけたいが、警戒されるだろうし、実際に見れただけでも嬉しかった。そう、縲麟にとって桜月と晃月は推しと化していたのだ。つまり、縲麟は推しに会えた喜びで心の中で叫ばずにはいられなかったのだ。


翌日、騎馬隊が早朝に来る予定だ。そのため、日がのぼるより早く、準備をしていた。火縄銃の準備は昨日の内に終わっていたため、今は最終確認をしていた。

桜月は騎馬隊がくるのを[千里眼]で見ていた。卯の上刻頃、騎馬隊が動き出した。十分で騎馬隊が織田軍につくだろう。桜月は信長にそれを伝えた。周りを見ると、信長やその部下がものすごく鋭い目つきをしていた。その迫力を見て、桜月は背筋に電気が走った。桜月は心拍が早くなり、心なしか、とても嬉しそうで楽しそうであった。

十分後、騎馬隊対織田軍と徳川軍の戦いが始まった。戦の山場である。織田軍の前には、階段のように段差のある場所が作られており、敵の侵入を許さないように木を組み立ててある。火縄銃を撃てるような隙間もある。木の先端は尖らせており、斜めに木を傾けてもいる。火縄銃の他にも、槍を持った兵がいる。木の塀を乗り越えてきた馬を刺し殺すためである。それでも、乗り越えてきた敵がいたらいけないから、刀を持った兵も待機している。

武田軍は騎馬隊を前線として、全ての兵力を向けてきた。武田勝頼は後方にいる。

両兵の衝突が起きた。叫び声や指揮者の声など、様々な声が飛び交い、馬の走る音や鎧の音が重なり、大きな迫力を生む。まるで、火が燃え盛っているようだ。戦を見ているだけでも、火傷しそうなくらいに熱い。桜月と晃月はただ、見ているだけなのに、身体が暑くなって汗が出てくる。二人は戦の迫力に圧倒され、すごいと言う言葉では終われないのか、黙って突っ立っている。だが、二人にも戦での役割はある。

二人は、織田軍の火縄銃の撃つ音で冷静さを取り戻した。

織田軍が火縄銃を撃つと、すぐさま騎馬隊が襲いかかってきた。おそらく、火縄銃を再び撃つのに時間がかかると踏んで、攻撃を仕掛けたのだろう。しかし、信長の考えた三段式の火縄銃の使い方の前では、無意味であった。

最初に撃った火縄銃は後ろに回り、他の二発が終わるまでに次を撃つ準備をするのだ。つまり、手間はかかるが、連続で撃てるのだ。

火縄銃の準備時間を狙った武田の兵は、面白いほどに倒された。騎馬隊は前に出ていた一体しか倒せなかったが、流れは織田と徳川に向いている。織田軍は騎馬隊がくるたびに、火縄銃を撃った。騎馬隊の数体は倒せるものの、馬も鎧を着ていたり、歩兵を差し向けられたりして、騎馬隊の現象があまりできていない状況になった。そこで、桜月と晃月の出番である。

【幻術】を使う手段も考えたが、武田にも忍者はいた。そのため、【幻術】を知っている可能性が高い。なので、そのまま、クナイで首の動脈を切ることにしたのだ。守りが硬い場合は、足の腱を両方とも切るようにする。なるべく殺しはしたくないが、今は戦中だ。そんな悠長なことを言っていると、自分たちがやられる。そう覚悟を決め、桜月と晃月は動いた。

そんなことをしたら、桜月と晃月を知るものが増えるのではと思うだろう。だが、姿を見せるのは、敵にだけである。自分たちを見てしまった敵は殺してしまえばいい。何せ、自分たちの役割は、火縄銃で対応できないような兵を間引くことなのだから。少しばかり多く減らしたとしても、怒られないだろう。むしろ、褒められるだろう。

桜月は武田軍の右側、晃月は左側から間引きする。まずは、大多数いる歩兵から減らす。歩兵の強さでは見えぬ速さでクナイを使って首の動脈を完全に切る。

桜月と晃月が通ったと思われるところからは、血飛沫が噴水のように飛び上がっている。まさに、地獄絵図である。

ある程度、歩兵の間引きができたところで、騎馬隊の間引きへと入った。そこら中から血飛沫が上がったことで、周囲は警戒心が高い。だが、そんなことで桜月と晃月は止められない。

クナイを持って、騎馬隊が固まっているところを狙って間引きしていった。ある程度間引きしたら、二人は見つからないように森へと隠れた。


桜月と晃月は戦闘狂ではあるが、殺しが好きなわけではない。だが、忍者をしている以上、殺しは必ずと言っていいほどに行うものだ。そのため二人は、殺す必要がない者は殺さないようにしている。


桜月と晃月が役割を終えた後、風向きは確実に織田と徳川に向いていた。この調子だと、無事に武田軍に勝てそうである。

そう思ったのも束の間、。なんと、武田勝頼が自ら前線に出てきたのだ。

武田勝頼は派手な鎧を身につけ、長刀を持ち、馬に乗って現れた。勝頼が前線に訪れただけで、武田軍の兵の士気が上がった。

織田軍と徳川軍の中には、その迫力に怖気付く者や腰を抜かす者が現れた。

当たり前だ。勝頼が前線に現れただけで風向きが武田に向き始めたのだ。

織田軍の兵たちが怖気付いた隙をついて、武田勝頼を先頭に突っ込んできた。火縄銃を持った兵が怖気付いていたため、すぐに第一関門を突破された。一番後ろには信長がいる。だが、信長の元には側近がいる。

戦前の二週間で側近にできる限りのことは叩き込んだつもりだ。武田勝頼を倒すことはできずとも、時間稼ぎ程度ならできるだろう。信長からは、自分を守れなどという命令は聞いていない。ギリギリまで見ていようと二人は怪しげに笑った。


武田勝頼率いる兵が第一関門、第二関門と次々と突破していき、ついに、信長のいるところへと到着した。無論、信長にも部下がいるが、人数差では負ける。そのため、武田の歩兵を足止めするくらいしかできない。武田の兵のほとんどを足止めできたはいいが、肝心の武田勝頼を抑える者がいなくなった。信長の部下は武田の歩兵や騎馬隊を抑え込むので手一杯だ。

武田勝頼が淡々と静寂に信長に近づいていく。

信長は座りながらも鋭利な殺気を飛ばしている。

勝頼が信長の首を狙って長刀を振り落とした。その瞬間、側近が二つの小刀を使って勝頼の長刀を防いだ。

信長自身も戦えるが、勝頼に勝つことは不可能に近かったため、側近に任せた。

側近を信じて、信長は勝頼から攻撃を受けそうになっても微動だにしなかったのだ。

側近には桜月と晃月ができる限りのことは叩き込んだとはいえ、勝頼の圧倒的武力の前に勝つことは難しいだろう。

勝頼の武術で最も圧倒的なのが、とてつもない筋力だ。長刀をまるで自信かのように振り回し、一撃一撃が岩のように重い。そして、勝頼に近づくと、馬の下敷きにされる。

勝頼の馬も筋力がずば抜けていて、数本の矢が刺さったところで致命傷にもならない。

そんな勝頼に側近はどう戦うのだろうか。桜月と晃月は影ながら見ていた。

見るところ、側近は勝頼から繰り出される長刀による攻撃をギリギリで受け流している。だが、このままでは側近の体力が持たずに敗北してしまう。

側近はこのまま勝頼の攻撃を防ぐのを続けても負けるだけだとはわかっていた。だから、桜月から貸してもらっている特別性の糸を取り出した。この糸は、事前に強度を試している。刀、クナイ、斧、ノコギリ。あらゆる武器や刃物を使って糸を切ろうとした。だが、最大でも少し傷がつくだけで切断はできなかった。そのため、勝頼の長刀も受け止められると考えたのだ。

勝頼が再び攻撃を仕掛けると、側近は糸を二重に持ち、長刀を受け止めた。勝頼は長刀を離さずに力を加えた。糸ならば切れると思ったのだろう。だが、一重なら少し可能性はあるが、二重にしているのだ。切れるわけがない。

側近は糸を切ろうと勝頼が力を込めている隙に、糸を長刀に巻きつけた。

側近は勝頼の力を利用し、長刀を地面に突き刺した。そして、両手が塞がっている勝頼に糸で攻撃を仕掛けた。首は残さなければならないため、首以外を狙った。

勝頼は糸の丈夫さを先ほど知ったため、歩兵に紛れた。そこには、信長の部下もいるため、広範囲攻撃はできない。だが、速い糸を完全に避けれるわけでもなく、左腕一本は切り落とせた。腕を切られているため、血液で場所はある程度わかる。

側近はクナイで勝頼を狙った。だが、勝頼は、部下に道を開けろと命じ、すぐに、刀の使える場所へ出た。長刀は勝頼の手の届くところにないため、歩兵の刀を持っている。

最後の悪あがきなのか、ものすごい力で攻撃を仕掛けてきた。これは、側近には防げない。

側近は死を覚悟して目を閉じた。だが、いつまで経っても攻撃を受けたような衝撃はない。

そっと目を開けると、目の前に桜月と晃月がいた。攻撃は晃月が片手で受け止めており、顔はこちらを向いていた。二人は柔らかい微笑みを浮かべていた。

勝頼は自身の攻撃を片手で、それも余裕そうにこちらに顔を見せないことに驚きが隠せず、固まっていた。

「よくここまで頑張った」

晃月は側近にここまでの戦いは求めていなかった。そのため、予想以上の戦いぶりを見せてくれた側近に感謝を込めながら褒めた。

「あとは任せて」

桜月は晃月同様、側近にあまり期待していなかった。鍛えるのも、二週間と限られていたため、ここまで粘れるとは思えなかった。だが、実際には桜月の予想を上回った。しかも、桜月が初めて鍛えた者がここまで成長したのだ。桜月はとても嬉しかった。

桜月は晃月に頼み、勝頼を一人で倒すことにした。晃月は桜月の気持ちを読み取ったのか、快く了承してくれた。

桜月は糸を素早く勝頼の首に巻きつけ、切り落とした。一瞬のことで、信長や信長の部下、武田兵も驚いていた。何が起こったのか、武田の兵にはまだ理解できていない。

信長が武田勝頼の首を持ち上げ、首を取ったと大声で宣言した。武田軍はそれを聞いて、天敵に出会ったネズミのように撤退して行った。

桜月と晃月は目立たないように信長が勝頼の首を持ち上げようとしたときに隠れた。

織田軍と徳川軍からは勝利の歓声が上がっている。

そう、勝利したのだ。あの、強いことで有名な武田に。

少しの間、歓声は三河全土に響き渡った。


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